
米半導体大手のエヌビディアのジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)が台湾・台北市の講演で、AI(人工知能)半導体の製造を支える台湾企業との連携を強化する方針を表明した。トランプ米大統領が半導体関税を打ち出して製造業の国内回帰を図る中、台湾のサプライチェーンの重要性を強調した格好だ。その真意は何か。特集『絶頂か崩壊か 半導体AIバブル』の#15では、トランプ政権の関税措置を受けて半導体のサプライチェーンの世界再編を進めるフアン氏の狙いに迫る。(ダイヤモンド編集部 村井令二)
フアンCEOが明かした同社にとって欠かせない
台湾の半導体関連メーカーの一覧を大公開
「サプライチェーンが再編、リセット、再構築されても、台湾は依然としてテクノロジーエコシステムの中心であり続けるだろう」
5月16日、台湾台北市の松山空港に降り立った、米エヌビディアのジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)は、集まった台湾メディアに世界の電子機器の製造を担う台湾企業の重要性を訴えた。
エヌビディアにとって台湾企業は特別な関係がある。エヌビディアのAI半導体を構成するGPU(画像処理半導体)は、台湾積体電路製造(TSMC)が受託生産している。さらに、鴻海精密工業を含め、複数の台湾の電子機器受託製造企業(EMS)がエヌビディアのGPUを搭載したAIサーバーを製造して、世界中のAIデータセンターに供給している。AI半導体を世界に出荷するサプライチェーンの要所を握っているのだ。
フアン氏は、5月20~23日の日程で開催された世界最大級のIT見本市「コンピューテックス台北(台北国際電脳展、COMPUTEX)」に参加するため台湾を訪問した。開催前日に行われた基調講演では、二つの発表がフアン氏の台湾重視の姿勢を裏付けた。
一つ目は、エヌビディアが鴻海、TSMC、台湾政府と協力して世界でも有数な規模のAIデータセンターを台湾に建設する計画だ。二つ目として、台北市内に広大な新社屋を建設し、海外事業を統括するグローバル本部を設置する計画も発表した。
これを受け、コンピューテックスの主催団体の台湾貿易センターの黄志芳会長も翌20日の記者会見で「半導体やコンピューティングに強みを持つ台湾は次のAI時代をリードする」と胸を張った。さらに20日の開幕式には台湾の頼清徳総統も駆け付けて「われわれは、民主的な半導体サプライチェーンのために台湾を中心とした同盟を構築することを目指す」と述べ、台湾企業が安全保障に重要な役割を果たすことを強調した。
だが、その台湾のサプライチェーンが揺れている。
トランプ米大統領は「台湾が米国の半導体産業を奪った」と主張して半導体関税措置の導入を打ち出し、半導体生産の米国回帰を進めようとしている。
すでにTSMCは米アリゾナ州で建設中の半導体工場の投資額を1000億ドル上積みしたほか、エヌビディア自身も、米テキサス州で鴻海や台湾の同業、緯創資通(ウィストロン)と協力してAIサーバーの組み立て工場を建設中だ。
中国は依然として「台湾統一」への野心をむき出しにしており、地政学的なリスクもくすぶる。
そうした中で、フアン氏が台湾との結び付きを強化する方針を打ち出した真意は何か。
次ページで、フアンCEOがエヌビディアにとって欠かせない企業として個別に名前を挙げた台湾企業の一覧を公開し、フアン氏が狙うグローバルサプライチェーン再編の姿に迫る。