「転職は悪」という風潮に一石を投じ、日本人の働き方を変えた北野唯我氏の著書、『マンガ このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法』。マンガ版では「自分にはキャリアの武器が何もない」と思っている主人公の奈美(もうすぐ30歳)が悩みながら、自分のキャリアを見つけ出していく。「やりたいことがなければダメ」「S級人材以外は有利な転職は無理」など転職の常識が次々と覆される。今回は、本書に関連した著者の書き下ろし記事を掲載する。

あなたの会社はあなたを守ってくれる?
あなたの会社は、あなたの未来を守ってくれるだろうか?
副業が当たり前になりつつある今、「転職なんてリスクだ」「会社に忠誠を尽くすのが安全だ」と信じ込んではいないだろうか?
その思い込みこそが、令和後半を生きる私たちのキャリアを最も危うくしている――そう警告するのが私の著書『転職の思考法』、そして『マンガ転職の思考法』だ。
『転職の思考法』で、主人公は「辞める」か「残る」かの二択にとらわれず、最終的に辞めずに戦う道を選ぶ。「辞める自由を手に入れたうえで残る」という逆説。7年が経ち、副業解禁と雇用流動化が進んだ2025年の今こそ、この逆説が現実味を帯びる。
実際、パーソル総合研究所の調査によれば2024年時点で60.9%の企業が副業を容認し、正社員の40.8%が副業意向を示した(MicroCMS Assets)。
一方で実際に副業経験のある人は24.6%にとどまるという別調査もある(MS-Japanの求人・転職サイト)。数字が示すのは、選択肢はあるのに踏み出せない働き手の姿だ。
副業でマーケットバリューを高める方法
では、どう踏み出すか。キーワードは「市場価値(マーケットバリュー)」だ。
①技術資産=専門スキル、②人的資産=信頼・人脈、③業界の生産性=市場の将来性。
この3要素の掛け算が高いほどいつでも転職できる自由が手に入る。副業はこの3要素を同時に強化できる最短ルートだ。
たとえば生成AIが得意な若手エンジニアが、週末にスタートアップのAI実装を手伝えば、希少スキルと成長市場での実績、そして新たな人的ネットワークを一気に得られる。本業のネームバリューに頼らず自分の名前でお金を稼ぐ経験は、市場価値を跳ね上げるブースターになる。
さらに私が伝えたいのが「Sランク業界にピボットせよ」というメッセージである。
Sランクとは、①多くのベンチャーや新規事業が参入し、②既存プレイヤーの非効率を突いて急拡大している市場。
副業を通じて小さく飛び込むことで、リスクを抑えつつ最先端の波に乗れるのだ。逆に、自社の属する業界が縮小フェーズに入っていると感じたら、一刻も早く成長市場の水を浴びることが生存戦略になる。
もっとも、副業や転職活動を始めると「裏切り者と思われるのでは?」という心理的ハードルが立ちはだかる。
転職は悪ではない。交渉カードだ
ここで思い出したいのが『転職の思考法』に出てくる名セリフ「転職は悪ではない。努力を放棄した者の言い訳でもない」。会社に対等に向き合うための交渉カードであり、結果的に組織も自分も強くする起爆剤だ。
実際、副業経験者への聞き取りでは「副業で得たスキルを社内に持ち帰り、部署の生産性が20%向上した」といったポジティブな効果が多数報告されている。企業が副業を容認する理由も、従業員の成長が本業に還流する“プラスサム”にある。
では何から着手すればよいか?
本書のフレームワークを借りれば、①自分の市場価値を棚卸しし、②不足している要素を副業で補い、③半年ごとにギャップを測定する――このサイクルを回すだけでキャリアは動き出す。
副業マッチングサービス、クラウドソーシング、コミュニティ経由のプロボノなど選択肢は無数にある。小さな一歩でも、社外で成果報酬を得る体験は、キャリア観を一変させる「リセットボタン」だ。
最後に、冒頭の問いをもう一度振り返ろう。
「あなたの会社は、あなたの未来を守ってくれるだろうか?」。
『転職の思考法』主人公である青野は、答えが「わからない」からこそ外の世界に出て、自分の市場価値を測った。そのうえで「今の会社で勝負する」と腹を決める。彼はもう、会社にしがみついてはいない。
辞める自由を持ったうえで残り、上司の不正と戦う姿は痛快だ。自由を手にした者だけが、本当の意味で会社を選び、会社を良くできるのだ。
あなたの会社があなたを守ってくれないなら…?
もしあなたも「イエス」と即答できないなら、それは行動のサインだ。
副業という「低リスクの実験場」で市場価値を試し、キャリアを再設計してみてほしい。会社にしがみつく時代は終わった。これからは、会社を選び続けられる自分こそが、最強の生存戦略となる。
あなたのキャリアの舵を、今日から自分の手で握ろう。
(※この記事は、『マンガ このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法』に関連する書き下ろし記事です)