「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。企業とユーザーが共同で価値を生み出していく「場づくり」が重視される現在、どうすれば価値ある戦略をつくることができるのか? 本連載では、同書の内容をベースに坂田氏の書き下ろしの記事をお届けする。
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考えることを強制してはいけない
今、多くの企業で「考えない社員」が増えています。
その原因は個々の能力ではなく、実は組織側の環境にあることが少なくありません。
もしあなたの会社で「最近の若手はすぐ答えを聞いてくる」、「ChatGPTばかり使って、考える力が落ちている」といった声が聞こえてくるなら、それは危険な兆候です。
なぜなら、人はただ「考えろ」と命じられても、自発的に深く考えられるようにはならないからです。
もし、組織の中で“自ら考える人材”が減っているのであれば、その原因は若手ではなく、むしろ経営陣や管理職のマネジメント側にある可能性が高いのです。
考えるためには、明確な方針が必要
たとえば、あなたが友人と待ち合わせをしている状況を想像してみてください。
スマートフォンの地図アプリを頼りに目的地へ向かうとき、人は自然と「今の方向は正しいか」「この道で合っているか」と確認しながら歩きます。
一方で、目的地を決めずに、ただ歩いているだけの状況ではどうでしょうか?
おそらく何も考えずに、ただ“なんとなく”歩き回ることになるはずです。
人間が主体的に考えるためには、「向かうべき方向」が必要なのです。
方針が曖昧な組織では、社員はどこに向かえばよいのか分からず、思考も行動も停滞してしまいます。
KPIを定義できない組織に
“考える人材”は育たない
あなたは、会社の主要なKPIをすぐに具体的に説明できるでしょうか。もし答えられないのであれば、社員が自律的に考えるための土台が、組織に整っていないと言えます。
KPIとは、社員の思考を導く“共通のコンパス”のようなものです。
たとえば筆者が支援したある企業では、社長と現場が同じKPIと同じ数値を見ながら意思決定を行っていました。その結果、社員たちは自分で状況を判断し、現場で積極的にアイデアを出し合い、自律的に行動していました。
一方で、KPIが明確でない企業では、部門ごとにバラバラの帳票や指標が乱立しがちです。高額な分析ツールを導入していても、全社で共有されていなければ意味がありません。
ただし、注意すべき点が一つあります。KPIは“ただ設定すればいい”わけではありません。
会社のビジョンや戦略に基づき、「何を達成するための指標なのか」が明確でなければ、社員の思考を導くという本来の役割を果たさないのです。
『戦略のデザイン』では、こうした「仕組みの設計」について体系的に整理しています。
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。




