
新たな「相互関税」は製造業に打撃
対米輸出3兆~5兆円減少、実質GDP0.5~0.8%押し下げ
参議院選挙は与党が過半数割れとなり、石破政権の基盤は一段と弱体化することになったが、当面の政権が直面する、そして最大の経済政策課題はトランプ関税への対応だ。
日米貿易交渉は22日、合意が発表され、自動車関税が25%から15%に引き下げられたほか、相互関税は15%と事前に通告されていた25%を下回った。最悪の結果は回避されたが、それでもトランプ政権が発足してからの関税率が大幅に上昇することには変わりはなく、15%の関税率は先進国間の水準としては異例の高さだ。
しかも、この関税引き上げで米国の対日貿易赤字が解消することは難しいとみられ、関税引き上げの議論がいつ再燃しても不思議ではない。
筆者らの試算によれば、今回の新たな関税により日本の対米輸出額は年間3兆~5兆円減少する見通しだ。この影響は実質GDP成長率を0.5~0.8%押し下げる規模に相当し、日本経済は減速感が強まる可能性が高い。
とりわけ製造業では、収益悪化で賃上げや雇用にも影響が生じ、5年後には最大59万人の雇用が削減される可能性がある。
一部は人手不足のサービス業に吸収されるにしても、日本経済全体では生産性が低下するだろう。とりわけ地域経済では、人材流出や産業集積の希薄化が進むことで首都圏との格差が拡大し、日本の成長基盤が壊れることになりかねない。
石破首相の退陣を求める声もでているが、政権がどういった形になっても、製造業の雇用調整を「起点」に、新しい成長モデルの足掛かりをどう作るのか、経済政策の最大課題になる。