日本の会社員はなぜ「やる気」を失ったのか写真はイメージです Photo: PIXTA

1990年代半ば以降、競争力を失った日本企業。ギャラップ社の国際調査で「やる気のない社員」の割合が70%に達し、社員のモチベーションで世界最下位クラスの日本が凋落するのも当然のことだ。失ったやる気を取り戻すにはどうしたらいいのか、企業の抱える問題を検証する。本稿は、渋谷和宏『日本の会社員はなぜ「やる気」を失ったのか』(平凡社新書)の一部を抜粋・編集したものです。

「やりたい」か「やらされる」かで
ストレスの度合いが変わる

 会社員のメンタルヘルス(心の健康)の専門家として多くの企業で講演や助言を行っているコンサルタントに取材していたときのことです。

 彼は私にこう尋ねてきました。

「唐突ですが、渋谷さんは山登りがお好きですか?」

 私には山登りの趣味はありませんでしたが「ランニングを愛好しているので始めてみたら好きになれるかもしれない」と答えました。

「私はどうも苦手です。一度、友人に誘われて日帰りでハイキングしたんですが、きつくて懲りてしまいました」

 彼は苦笑しながら言い、真顔でこう続けました。

「メンタルヘルスの専門家として言わせてもらえば、仕事はまさに山登りなんですよ。山登りは、それが好きな人にとってはストレスを解消する格好のレジャーです。しかし山登りが苦手だったり興味を持てなかったりする人にとっては、重い荷物を背負って坂道を上り続けることなどストレスをもたらす苦役にほかなりません。お金をもらっても嫌だと言う人も少なくないでしょう」

「仕事も同じです。仕事の中身や負荷が変わらなくても、本人がすすんでやりたいと思っているか、やらされていると感じているかで受けるストレスの度合いは異なります。『嫌な仕事をやらされている』と思いこんでいる社員はやる気を持てず、能力を十分に発揮できないでしょう。それだけではありません。常にストレスにさらされていますから、心の健康を損なってしまう危険とも隣り合わせです。本人にとっても企業にとっても不幸なことです」

 そして彼はこう警鐘を鳴らしました。

「私は訪問した企業では現場の社員からも話を聞くようにしています。その経験から、少なからぬ日本企業とくに大企業の経営が『嫌な仕事をやらされている』と感じる社員を増やす方向に進んでいる気がしてなりません。もし私の印象が当たっているなら、そんな企業の将来は危ういのではないかと思います」