プレゼン資料は、「読ませるもの」ではありません。“込み入った話”を言葉だけで伝えようとすると、どうしてもまどろっこしい表現になり、非常にわかりにくい説明になりがちです。そんな時に必要なのは、伝えるべき内容の「本質」を、直観的に理解できるように「図解化」する技術。プレゼン資料は「見せるもの」なのです。そこで、累計40万部を突破した『社内プレゼンの資料作成術』シリーズの著者で、ソフトバンク在籍時には孫正義社長に直接プレゼンをして「一発OK」を次々と勝ち取った実績を持つ前田鎌利さんと堀口友恵さんに、プレゼン資料を「図解化」する技術を伝授していただきます(本連載は『プレゼン資料の図解化大全』から抜粋・編集してお届けします)。

【プロの資料作成】“NG資料”を劇的に変える「40文字」「105文字」の法則写真はイメージです Photo: Adobe Stock

なぜ、「ピン!」とこないスライドになるのか?

 どうすれば、NGスライドをOKスライドにつくり直すことができるか?
 この記事では、それを実践したいと思います。最初にNGスライドをお見せしますので、読者のみなさんならどのようにつくり直すかを考えてみてください。

 では、早速、【図-1】のNGスライドをご覧ください。このスライドは、KMRコンサルティングという会社の事業を説明する社外プレゼンの一部です。

【プロの資料作成】“NG資料”を劇的に変える「40文字」「105文字」の法則

 この会社は、海外アーティストと日本企業を結びつけることで、双方にとってメリットを生み出す仲介者(コンサルタント)として事業を行っており、その全体像を1枚の「図解スライド」にしたのが【図-1】です。

 しかし、この図解では、直観的に「海外アーティストと日本企業の仲介をしている」ことが理解できませんよね? どこに問題があるのか、一緒に考えていきましょう。

「関係性」は矢印で表現したほうがよい

 第1に指摘したいのは、「キーメッセージ」がないことです。
 このスライドで「最も伝えたいこと」を、キーメッセージとして明確に打ち出すことによって、スライドを読み解くことは格段に容易になります。

 第2に、「図形」の使い方が適切ではないということです。【図-2】ので示しているように、海外アーティストと日本企業が「長方形」に、KMRコンサルティングの「楕円」の一部が被さるように配置されていますが、これが効果的ではないのです。

【プロの資料作成】“NG資料”を劇的に変える「40文字」「105文字」の法則

 おそらく、「楕円」の一部を「長方形」に被せることで、KMRコンサルティングが、海外アーティストと日本企業の「橋渡し」をするということを視覚的に表現しようとしたのだと思われます。そして、「長方形」に被せるためには、「楕円」にせざるを得なかったのでしょう。

 しかし、特段の意味がない場合は、基本的に複数の図形を使わない方がわかりやすいスライドになります(「楕円」は基本NG)。また、ボックス同士の関係性は矢印で表現するとわかりやすくなります。

 第3の問題点は、文字量が多すぎることです。
 スライド全体で105文字を大きく上回る文字量となっており、特に、【図-2】のの部分が「文章表現」になっているために、不必要に文字数を増やしています。これでは、相手はスライドの文章を読み始めてしまい、こちらのトークに耳を傾けてはくれないでしょう。

ボックス内を「40文字」に近づける

 これらの点を改善したのが【図-3】です。

【プロの資料作成】“NG資料”を劇的に変える「40文字」「105文字」の法則

 まず、【図-3】ののようなキーメッセージを打ち出しました。これによって、このスライドが伝えたいことは明確になり、相手は、その視点で図解を読み解こうとしてくれます。

 そして、ご覧のように、3つのボックスを全て同じ形状のものにするとともに、【図-3】ののように双方向の矢印を置きました。

【図-4】のように、一方向の矢印や矢羽のない太い罫線で繋げる方法も考えましたが、双方向の矢印にしたほうが、「KMRコンサルティング」が「海外アーティスト」「日本企業」双方と対話をしながら、両者のマッチングを行うという「関係性」をイメージしやすいと判断しました。

【プロの資料作成】“NG資料”を劇的に変える「40文字」「105文字」の法則

 最後に、【図-3】ののように文字量を大幅に削減しました。
 ここでのポイントは、【図-1】では文章表現だったものを、すべて体言止めの箇条書きにしたことと、4つのボックスに分割することで、ボックス内で40文字以内にしたことです。

 スライド全体では、これでも105文字を超えてしまっていますが、ボックス内の文字数をなるべく40文字に近づけることで、かなりシンプルな印象をもたせることができたのではないでしょうか。

最も重要な「構図」を最初に見せておく

 なお、このスライドも、【図-5】のように分割するとより一層効果的でしょう。

【プロの資料作成】“NG資料”を劇的に変える「40文字」「105文字」の法則


 トークの進展に合わせて、緑の点線部分を順番にアニメーションで見せていくことによって、“ネタバレ”を防ぐという効果ももちろんありますが、ここで何よりも重要なのは、①のスライドを見せることによって、全体の構図を最もシンプルな図解で見せておくことです。

 このスライドで伝えたい最も本質的なポイントは、キーメッセージにあるとおり 「我々KMRコンサルティングは、海外アーティストと日本企業を繋ぐ事業を行っています」 ということですが、それを最もシンプルに表現したのが①のスライドにほかなりません。

 そして、このスライドを相手にしっかりと印象づけておけば、その後、詳しい内容の説明を進めていっても、おそらく混乱して「何を言ってるのかわからない」ということにはならないはずです。

 このように、まず初めに 「最も根本的な構図」を図解で見せたうえで、情報を分割して少しずつ見せていくことによって、文字量が多いスライドのデメリットを最小化することができます。

 これも、わかりやすいプレゼンをするうえで、非常に重要なポイントですので、ぜひ覚えておいてください。

(本稿は、『プレゼン資料の図解化大全』より一部を抜粋・編集したものです)

前田鎌利(まえだ・かまり)
1973年生まれ。ソフトバンクモバイルなどで17年にわたり移動体通信事業に従事。ソフトバンクアカデミア第一期生に選考され、プレゼンテーションにおいて第一位を獲得する。孫正義社長に直接プレゼンして幾多の事業提案を承認されたほか、孫社長のプレゼン資料づくりも数多く担当。2013年12月にソフトバンクを退社、株式会社固を設立して、プレゼンテーションクリエイターとして独立。2000社を超える企業で、プレゼンテーション研修やコンサルティングを実施。ビジネス・プレゼンの第一人者として活躍中。著書に『【完全版】社内プレゼンの資料作成術』『プレゼン資料のデザイン図鑑』『パワーポイント最速仕事術』(すべてダイヤモンド社)など。

堀口友恵(ほりぐち・ともえ)
埼玉県秩父市生まれ。立命館大学産業社会学部卒業後、ソフトバンクへ入社。技術企画、営業推進、新規事業展開などを担当する中で、プレゼンの経験と実績を積む。2017年に株式会社固へ転職し、スライドデザイナーとしての活動を始める。企業向け研修・ワークショップの担当や大学非常勤講師のほか、大手企業などのプレゼンのスライドデザインを担当し、のべ400件以上の資料作成やブラッシュアップを手がける。前田鎌利著の『プレゼン資料のデザイン図鑑』『パワーポイント最速仕事術』のコンテンツやスライドの制作にも深く関わった。ITエンジニア本大賞2020プレゼン大会にて、ビジネス書部門大賞・審査員特別賞を受賞。小学生向けのオンライン講座「こどもプレゼン教室」を運営し、子どもたちのプレゼンスキルアップの支援も行っている。