「やることがあるのに、手をつけられないまま時間だけが過ぎていく」――そんな自分にもどかしさを感じ、ストレスを抱えていませんか? 勉強、仕事、筋トレ…やる気はあるのに行動に移せない。そんな私たちの悩みに心理学の視点から解決策を導き出すのが、新刊『すぐやる人の頭の中──心理学で先延ばしをなくす』です。著者は、モチベーションの研究を専門とする筑波大学人間系教授・外山美樹氏。本稿では、その一部を抜粋し、「良い習慣を継続するための心理的テクニック」を紹介します。

「継続力がある人」と「すぐにやめてしまう人」決定的な考え方の違いとは?Photo: Adobe Stock

1つの目標を達成した瞬間、その行動を継続できなくなってしまう

 目標達成後の行動に関する研究は多くありませんが、限られた研究の中から、興味深いことがわかっています。

 それは、ある目標を達成すると、人はその目標のために続けていた行動をやめてしまったり、別の目標に向かったりする傾向がある、ということです。

 たとえば、「5キロ痩せる」という目標に向けて食事制限と運動を行ってきた人が、目標を達成したからといって、食事制限と運動をやめてしまったらどうなるのでしょうか?

 リバウンドが生じてしまい、あっという間に元の体重に戻ってしまうことは容易に想像できます。

 それでは、目標の達成後も、目標に沿った行動を続けるためには、どうしたらよいのでしょうか?

 ここで、また心理学の知見に頼ることにしましょう。

「今の自分」の捉え方の違い――ゴールか? 道のりか?

 目標を達成した直後の人に、図5-4の左図を見せ、「現在の自分は目的地に到着したようなものだ」と伝えます。

「継続力がある人」と「すぐにやめてしまう人」決定的な考え方の違いとは?目標達成後の状態を「目的地」と捉える場合(左図)と、「旅路(道のり)」と捉える場合(右図) イラスト:米村知倫

 こうして結果に焦点を当てさせた人は、目標に沿った行動から離脱しやすくなることがわかりました。

 対照的に、図5-4の右図を見せ、「現在の自分の状態は旅路(道のり)を歩いてきたようなものだ」と伝え、目標追求のプロセスに焦点を当てさせた人は、目標達成後も目標に沿った行動を継続しやすくなることがわかりました。

健康的な習慣を長期間続けた人の共通点

 たとえば、健康増進のために10万歩を歩くというプログラムに参加した人を対象に、プログラム完了後(つまり、10万歩を歩いた後)、参加者の3日間の歩行行動を記録しました。

 歩行プログラムが終わった際に、図5-4の左図を見せられ、目標追求の結果に焦点を当てさせた参加者は、プログラム完了後の3日間、平均して9997歩を歩いていました。

 それに対して、図5-4の右図を見せられ、目標追求のプロセスに焦点を当てさせた参加者は、プログラム完了後の3日間、平均して1万5447歩も歩いていました。

 これは、目的地と捉えた参加者の1.5倍の歩数になります。

 また、アフリカの経営教育プログラムを完了した経営者を対象にした研究では、プログラムを完了するという目標を達成した自分の状態を「目的地」に到着したように考えるようにいわれた経営者は、そのようなことをいわれなかった経営者に比べて、目標に沿った行動(研修で学んだ商取引に関する事柄をアフリカでの事業に取り入れ、実践する)からは離脱する傾向にありました。

 一方で、目標を達成した自分の状態を、道筋をたどってきたように考えるようにいわれた経営者は、そのようにいわれなかった経営者に比べて、その後も取り組みを継続することが示されました。

 つまり、目標達成を「ゴール」として終わらせるのではなく、そこまでの歩みを振り返り、成長を実感することが、行動の継続につながるのです。

※本稿は、『すぐやる人の頭の中──心理学で先延ばしをなくす』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。