勉強、仕事、筋トレ…やる気はあるのに先延ばししてしまう。多くの人が抱えるこの悩みに、心理学の視点から答えるのが、新刊『すぐやる人の頭の中──心理学で先延ばしをなくす』だ。著者は、モチベーションの研究を専門とする筑波大学人間系教授・外山美樹氏。本稿では、本書より一部を抜粋し、「モチベーション維持に役立つ心理的メソッド」を紹介する。

「嫌なことの先延ばしグセ」に効く1つのスゴい方法とは?【心理学】Photo: Adobe Stock

「自覚なしに、やってしまう」が最強

 私たちは常日頃、「自らの行動が、自分のコントロール下にある」という感覚を抱いています。

 しかし、本日の講義で見てきたように、どうやらその限りではないようです。

 しばしば、自らの行動の原因を特定することが困難なように、私たちの行動は感覚に反して、常に環境の影響を受け、多くの行動を自覚なしに起こしています。

 現代の心理学では、あらゆる活動において意識と無意識の2つのシステムの働きが想定されるようになってきています。

 無意識は自動化されているため、意識に比べて負荷が少なく、高い効率性を備えています。

 仕事が着実なだけでなく、努力もあまり必要としません。

 一方で、意識は内省や自覚、意図を伴う分析的で精緻な心理過程なので、意識的な注意を払って課題に取り組めば、より精緻な情報処理が可能になります。

 しかし、無意識に比べると負荷が大きいため、意志の力を発揮させるのに必要な資源は枯渇し、すぐにパフォーマンスが低下することになります。

 意識と無意識、それぞれの働きにメリットとデメリットがあるのです。

「嫌なことの先延ばしグセ」に効く1つのスゴい方法とは?【心理学】

行動は、頑張って始めなくていい

 意識と無意識の働きをよく理解し、それを利用することが目標達成につながります。

 本書でここまで見てきたように、些細なきっかけや、無意識のうちに捉えた手がかりが、私たちのモチベーションや目標追求に大きな影響を及ぼします。

 つまり、目標追求において、すべてのアクションを意図的・意識的に起こす必要はないのです。

 人間の活動の資源は限られています。

 目標を実行する際には相当な努力が必要となるため、意志の力ばかりに頼ることは現実的ではなく、また、無理にそうする必要もありません。

 また、やる気を失っている時に、何らかの意識的な働きかけを行い、それを高めていくことは容易なことではありません。

 そうすることで、さまざまな弊害が生じる可能性(たとえば、頑張るといった意志の行使が重圧となり、かえって失敗を招くことになる)もあります。

自分を目標へと仕向ける

 ここで活用すべきが無意識の力です。

 私たち人間には、行動を自動化させることで、意識に頼ることなく目標を達成することのできる無意識の力が備わっています。

 無意識は意志の力をほとんど必要とせず、自動的に働きます。これをうまく活用しない手はありません。

 無意識的な行動を促しやすくなる合図をうまく用いましょう。動くための合図をあちこちにしかけるのです。

 家の中を見渡し、勉強、筋トレ、禁煙……など、「目標の合図」となるようなものがあるかを確認してみましょう。

 自分にとって、目標とのつながりがはっきりとわかるものであれば、何でも引き金になりえます。

 ・健康のために、バスルームの目立つところに体重計を置く。

 ・自分の部屋の目につくところにトレーニングウェアを掛けておき、すぐに手に取れるようにする。

 ・冷蔵庫の中には、甘いおやつでいっぱいにする代わりに、フレッシュな果物を入れておく。

 ・勉強(仕事)にとりかかりやすくするために、机の上にはスマホや漫画を置く代わりに、書籍や参考書を置いておく。

 ・デスクトップの壁紙に自身の目標や格言を入れてカスタマイズする。

 ・大きな文字で、To Doリストを書き出し、目につきやすいところに貼り付けておく。

 目につく場所にこのような引き金を用意しておくことで、無意識のうちに目標に向かった行動をとるように自分を仕向けるのです。

 さらに、私たちは誰かが目標を追いかけている姿を目にすると、それが強力な引き金となり、無意識のうちに同じ目標を求めようとします。

 自分と同じ目標を目指す人をロールモデルとして上手に活用することで、目標に向かうモチベーションを向上させることができます。これも1つの心理的作戦と言えるでしょう。

※本稿は、『すぐやる人の頭の中──心理学で先延ばしをなくす』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。本書ではこの他にも、心理学の研究に触れながら、目標に向かって行動するためのメソッドをたっぷり紹介しています。