精神科や心療内科は悩みを解決してくれる?
――「精神科や心療内科に行けば解決する」と思って勇気を持って行ったけれど、医師に気持ちを理解してもらえなくてがっかりしてしまった、という人の話も聞きます。
さわ:患者さんと医師の相性もありますし、医師も不完全な人間なので、自分が経験していない感情については、100%共感することは難しいかもしれません。実際、患者さんから「先生に私の気持ちなんてわかるんですか?」と言われたこともあります。
――けっこう厳しめの言葉ですね。
さわ:でも、それは、「本当はわかってほしい」という気持ちの裏返しだと思います。
だからこそ、医師としては、その人が言葉にできない気持ちに、どれだけ耳を傾け続けられるか、その人の苦しみにどれだけ思いを寄せられるかが大事だと感じています。
――伝わらなくても、耳を傾けてくれる存在がいるだけで全然違いますよね。
さわ:そうですね。人の心に、すぐに出せる正解なんてありません。一度の対話ですべてを理解することは難しくても、「この人はわかろうとしてくれている」と感じてもらえるだけで、大きな支えになると思います。
悩んだときは、1人ではなく、「3人」に相談してみよう
――相談したのに、「この人にはわかってもらえない」と感じたときはどうしたらいいでしょうか?
さわ:1人に相談して合わなかったからといって、あきらめないでほしいんですよね。感じ方や価値観にはどうしても相性があるので、相手を変えるだけで受け止められ方がまったく違うということもあります。そういうわけで、私はよく、「3人に相談してみて」とお伝えしています。
――本書にも「いくら考えても結論が出ないときは、たくさんの人に意見を聞いてみるといい」とありますね。
さわ:そうですね。患者さんと医師の関係性でも、合う人・合わない人はいます。だから「この先生に話しても意味がない」と落ち込む前に、ぜひ別の人にも相談してみてください。
相談相手はAIでもOK! 悩みを言葉にすると「自分の本音」に気づける
――最近は、AIに悩み相談する人も増えてますよね。
さわ:私もChatGPTに恋愛相談をしたことがあります(笑)。「あなたはもっと大切にされるべきです」と声をかけてくれましたよ。
――人に言いにくいことでも気軽に話してみようと思える場があるのは心強いです。
さわ:「言葉を出せる場所」があるだけで救われることもありますよね。気持ちを言葉にすることは、「自分の本音」に気づく大事なプロセスです。
――他人に打ち明けるのが難しいとき、自分の気持ちをうまく言葉にできないときに、自分のペースで心と向き合える手段があると安心できますよね。
さわ:はい。AIに相談するだけでなく、「本を読むこと」も自分に向き合うにはよい手段だと思います。
自分の気持ちを整理したり、つらさが言葉にならないときは、本書も手助けとなるはずです。「悩みを誰かに話すのはまだ難しい」と感じるときに、きっと支えになってくれますよ。
(本稿は『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』に関する書き下ろし特別投稿です)
塩釜口こころクリニック(名古屋市)院長。児童精神科医。精神保健指定医、精神科専門医、公認心理師
1984年三重県生まれ。開業医の父と薬剤師の母のもとに育ち、南山中学校・高等学校女子部、藤田医科大学医学部卒業。勤務医時代はアルコール依存症など多くの患者と向き合う。発達ユニークな娘2人をシングルで育てる母でもあり、長女の不登校と発達障害の診断をきっかけに、「同じような悩みをもつ親子の支えになりたい」と2021年に塩釜口こころクリニックを開業。開業直後から予約が殺到し、現在も月に約400人の親子を診察。これまで延べ5万人以上の診療に携わる。患者やその保護者からは「同じ母親としての言葉に救われた」「子育てに希望が持てた」「先生に会うと安心する」「生きる勇気をもらえた」と涙を流す患者さんも多い。
YouTube「精神科医さわの幸せの処方箋」(登録者10万人超)、Voicyでの毎朝の音声配信も好評で、「子育てや生きるのがラクになった」と幅広い層に支持されている。
著書にベストセラー『子どもが本当に思っていること』『児童精神科医が子どもに関わるすべての人に伝えたい「発達ユニークな子」が思っていること』(以上、日本実業出版社)、監修に『こどもアウトプット図鑑』(サンクチュアリ出版)がある。