「自分も他者も大切に守る方法」を知ることで、幸せな人間関係を作る力が育まれる―――
現在の性教育ブームの火付け役となった1冊『おうち性教育はじめます』シリーズの最新作が発刊された。タイトルは『こどもせいきょういくはじめます』(KADOKAWA)。「子どもが自分で読める本が欲しい!」というたくさんの読者の声から生まれた、シリーズ三作目にして初めての児童書だ。
著者のフクチマミ氏は、二児の母でもあるマンガイラストレーター。自身の著作としても初めてとなる児童書は、「大人から小学生へ贈る、お守り的コミック」にしたかったと話す。
今回『こどもせいきょういくはじめます』の発刊にあたり、フクチマミ氏にインタビューを行った。聞き手は、子ども向けに「自分の身を守る方法」を網羅的に紹介した児童書『いのちをまもる図鑑』の著者、滝乃みわこ氏。
児童書の著者である2人の話から見えてきた、今の時代に必要な教育とは。(取材・文=瀬戸珠恵)

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性教育は、知識の「積み重ね」が重要
フクチマミ(以下、フクチ):『こどもせいきょういくはじめます』を書いて実感したのが「性教育は積み重ねが重要」ということ。自分の体の名前やプライベートパーツについて知るところからはじめて、徐々に自分や相手を大切にする方法を学んでいく。一足飛びに理解を深めるのは難しいんです。

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滝乃みわこ(以下、滝乃):たしかに、積み重ねがなく、いきなり性の話にふれると、恥ずかしくてふざけてしまったりしますよね。
フクチ:そうなんです。でも、この「積み重ねる」説明を本で再現するのは大変でした。
滝乃:と、いうと?
基本がわかっていないと、本質もわからない
フクチ:『こどもせいきょういくはじめます』は児童書だから、ページ数をできるだけ抑えたかったんです。私自身、子どものころは分厚い本が苦手だったので…。だから最初は、からだの名前を省いて制作していました。でもそうすると、月経や射精といったからだの変化の説明がすごく唐突なんですよ。
滝乃:からだの名前やケアの方法を知らないと、本当に伝えたいことが成立しないということですね。
フクチ:そうそう。ピラミッドの基礎部分が抜けていると上が積めない、みたいな感じ。「性器の名前を子どもに教えるの?」という戸惑いもありました。でもやっぱり、自分のからだの名前を知ると、たとえばケガやトラブルがあった時、子どもが説明しやすくなるんです。
滝乃:ケアの方法もそうですよね。たとえば女の子はトイレで、おしっこのときは前から、うんちのときは後ろから拭くことも、からだを知ると、自然とわかる。
フクチ:はい。からだの名前と、拭き方や洗い方といったケアの方法は、性教育の基礎なんだなと、制作中に実感しました!
滝乃:そうですよね。性器のことを最初にポルノとして知ってしまうと、恥ずかしい部位だと捉えてしまう。まず「自分のからだの一部なんだよ」と教えられていたら、恥ずかしいという感覚自体が生まれにくいですね。
フクチ:そうなんです。つまり先ほど言った「性器の名前を子どもに教えるの?」という感覚は、健康の話としてとらえることが難しい、大人側の問題なのかもと。
滝乃:やっぱりそれだけ、私たちの世代は性教育を十分に受けられなかったのかな。
等身大の自分をアップデートしたくて、本を書いた
フクチ:私は親になってから性教育の本を読んだのですが、そこには自分とはかけ離れた親の姿が描かれていて。こんな立派な親に急にはなれないと思いました。だったらどうすればいいの? とまずジタバタする等身大の私たちを描こうと思って生まれたのが『おうち性教育はじめます』でした。
シリーズの共著者である村瀬幸浩先生(性教育研究者)のご意見は、本質を突いているんです。「な、なるほどー!」と目からウロコが落ちつつ、性教育を受けていない私たちにとっては「いや、それはちょっとハードルが高っ…」みたいなこともたくさんありました。
滝乃:そのやりとりの描写が、もう、すごくリアルなんですよね。専門家と普通の親との、リアルな差。だからこそ読み手は、ページをめくりながら「わかる~!」と共感の嵐(笑)。
フクチ:そうやって共感してもらえたのなら、何よりです!
※本稿は『こどもせいきょういくはじめます』に関する書き下ろし対談記事です。
フクチマミ 『こどもせいきょういくはじめます』著者
1980年生まれ。マンガイラストレーター。日常生活で感じる難しいことをわかりやすく伝えるコミックエッセイを多数刊行している。著書に高橋基治氏との共著『マンガでおさらい中学英語』(KADOKAWA)『マンガで読む 育児のお悩み解決BOOK』(主婦の友社)『マンガで読む 子育てのお金まるっとBOOK』(新潮社)など。
滝乃みわこ 『いのちをまもる図鑑』著者
執筆者
著書に『やばい日本史』シリーズ(ダイヤモンド社)『乙女の日本史』シリーズ(KADOKAWA)『しろくまきょうだい』シリーズ(白泉社)『こねこのすりすり』(パイインターナショナル)など。