警察庁の発表によると、2023年度の行方不明者は約9万人。そのうち9歳以下の子どもは1100人を超える。大半は所在確認されているが、依然として見つからない人もいる。最悪のケースの一つは誘拐事件だろう。実は、誘拐事件の多くは「子どもが自らついて行ってしまう」のだという。一見ふつうの人が、うまいことを言って誘ってくるからだ。では、そんな誘い文句に騙されないためにはどうしたらいいのか。
そんな疑問にこたえる本が、池上彰総監修『いのちをまもる図鑑 最強のピンチ脱出マニュアル』(ダイヤモンド社)だ。本書では、自然災害から犯罪まで、子どもが遭遇しうるあらゆる危険から身を守る方法を網羅的に紹介している。今回の記事では、本書の第4章「犯罪からいのちを守る」の監修者であり、危機管理の専門家・国崎信江先生に、不審者の見分け方を聞いた。(取材・構成 / 小川晶子)

【この人あやしい? あやしくない?】防犯の専門家に聞いた! 誘拐をたくらむ悪い大人の見分け方Photo: Adobe Stock

誘拐は「さらわれる」だけとは限らない

――『いのちをまもる図鑑』の中で、はっとしたのは「いかにもあやしい見た目の犯罪者はほとんどいません。たいてい『ふつう』の人です」というところです。誘拐事件というと、人通りのない道にあやしい車が来てすばやく連れ去る……みたいなイメージを持っていたのですが、やさしそうな人が話しかけて来て、子どもがついて行ってしまうんですね。

国崎信江氏(以下、国崎):ええ、意外かもしれませんが、騙されてしまって、自分からついて行くケースが多いですよ。

――自分の子どもには「困っている人がいたら助けてあげられる人になろうね」という話をよくしているのですが、助けてあげようと思ってついて行き、誘拐されたら……と思うと怖くなりました。

子どもが騙されてしまう、悪い大人の誘い文句

国崎:大人が本当に困っているのなら、子どもに助けてもらおうとはしないはずです。大人が「ネコがいなくなっちゃって……。助けてくれない?」なんて言って近づいてきたら、おかしいですよね。ふつうは警察や保健所に行くはずです。

――その不自然さに気づくことが重要ですね。

国崎:そういう声かけには、迷うことなく、「大人に言ってください」と言えばいいですよ。

「お母さんが事故に遭ったから、一緒に病院に行こう」というのも、知らない人が言うのは変です。お子さんが騙されないように、「お母さんが事故に遭ったり具合が悪くなったりしたら、まずお父さん、おばあちゃんに連絡するからね。知らない人があなたに伝えてくることはないよ」などと話しておくといいのではないでしょうか。

――たしかに、冷静に考えればおかしいですよね。『いのちをまもる図鑑』の中では「これ、ぜんぶウソです! 悪い大人のさそい文句」というページで、危険な声かけを具体的に紹介していますが、こういう本を親子で一緒に見ながら、話し合っておきたいと思いました。

【この人あやしい? あやしくない?】防犯の専門家に聞いた! 誘拐をたくらむ悪い大人の見分け方『いのちをまもる図鑑』本文より イラスト:室木おすし

「あやしい人」を見分けるには?

――あやしい車は、「ゆっくり近づいてくる」「同じ道をぐるぐる回っている」「エンジンをかけたまま止まっている」「窓ガラスが真っ黒で中が見えない」ということですね。こういう車を見たら逃げよう! と伝えれば、子どももわかると思います。一方で、「あやしい人」というのは難しいですね。近づいて来た人が気を付けるべき人なのかどうか、見た目で判断できるポイントのようなものはありませんか?

国崎:見た目では絶対にわかりません。見た目でわかったとしたら、警察官になってほしいくらい。大人だって見抜けないのですから、見た目で判断するのは無理だと思ったほうがいいです。判断できるのは言葉なんです。今いる場所から別の場所へ連れて行こうとしている言葉が出てきたら、その瞬間におかしいと思ってください。

「今いる場所」から「別の場所」へ連れて行く言葉は危険!

――具体的にはどんな言葉ですか?

国崎:たとえば近所の人が「おはよう。今日は暑いね」とか「今帰り? 気を付けてね」といった言葉をかけてくれるのならいいですよね。警戒するようなことはありません。でも、「こっちにおいで」とか「一緒に行こう」は警戒しなければなりません。「うちにヒヨコがたくさん生まれたから見に来る?」とかね。

――ああ~、生き物を持ち出されると心が動きそうですね……。

国崎:「そのゲーム好きなの? いま最新版ゲームのテストをやっているんだけど、ちょっと試してみない?」とか。その子によって、心が動くものが違うかもしれないですよね。こういうことを言われたらどうする?と親子で話し合っておくといいと思います。

国崎信江(くにざき・のぶえ)
危機管理アドバイザー。危機管理教育研究所代表
女性として、生活者の視点で防災・防犯・事故防止対策を提唱している。国や自治体の防災関連の委員を歴任。『10才からの防犯・防災』(永岡書店)や『おまもりえほん』(日本図書センター)などの監修もつとめる。

※本稿は、『いのちをまもる図鑑』(監修:池上彰、今泉忠明、国崎信江、西竜一 文:滝乃みわこ イラスト:五月女ケイ子、室木おすし マンガ:横山了一)に関連した書き下ろし記事です。