初任給で手取り30万円の企業は存在するのか?

ここまで初任給で手取り30万円の定義について確認してきました。そのうえで気になるのが、実際に初任給がそれほど高い企業が存在するのかということですよね。

厚生労働省の「令和5年賃金構造基本統計調査」によると、大学卒(男女計)の初任給の平均額は23万7,300円でした。

これは手取りではなく総支給額なので、初任給が手取り30万円の企業は平均に比べて、約15万円~16万円も初任給が高いということになります。平均の1.5倍以上という、かなり高水準な初任給と言えるでしょう。

実際に、これほどまでに初任給が高い企業が本当に存在するのか、気になるところですよね。

高年収で知られるキーエンスの求人を見ると、学部卒の初任給は2025年7月現在で28万円でした。これに業績給などが加算されるため、1年目から700万円ほどの年収になると言われています。

他にも名刺管理アプリで知られるSansan株式会社は、2024年4月新卒入社者の初任給を11.1%増の年収560万円に引き上げると発表しました。

月給は40万円とのことですが、控除後でも手取り30万円に近づく計算になります。まさに“手取り30万円”を実現しうる稀有な例でしょう。とはいえ、このような高待遇が実現できるのは、限られた一部の企業にすぎず、例外であるという視点も忘れてはいけません。

初任給が高いことだけに着目するのは危険

初任給の高さだけに着目すると、どうしても「1年目から給料が高いなんて羨ましい」という思考になります。ですが、会社選びというのは給料だけで良し悪しは決まりません。

例えば、先のキーエンスも圧倒的な高収益を支えるのは、社員の並々ならぬ努力があることでしょう。常に向上心が必要な環境であることは間違いありません。それに対して、「まったり仕事したい」という人には合わない可能性もあります。

つまり、初任給が高いということは、それだけ新入社員に求められる期待値は上がります。

また企業の中には、初任給の高さを採用の売りにする企業もあります。それに対して就活生は「給料が高いからこの企業だ」と安易に決めてしまい、入社後に厳しい環境に耐えられず、すぐに辞めてしまう可能性もあるのです。

給料は、そのまま“期待値”の裏返しです。

見かけの額面に惑わされず、自分の適性と向き合う姿勢が大切ですね。

企業選びでは「給料」以外の価値を可視化してみよう

僕が大学生の頃、とにかく給料が高いことに憧れを抱いていました。「年収1000万円」なんて言葉を聞いた暁には、問答無用で、ただ「羨ましい」と感じていました。

ですが、そこから8年、サラリーマンも起業も経験してみて、お金だけではないと年々実感します。というのも、お金が道具の1つに過ぎないからです。それに加えて、人間は「慣れ」という強い特性を持っています。

年収1000万円になったとして、5年たてば年収1000万円が当たり前になり、「年収1000万円であること」のありがたみを感じにくくなります。

それなのに仕事がどんどん忙しくなればどうでしょうか。「自分は年収1000万円なのになぜか満たされていない」と感じてしまうかもしれません。

最初は忙しくても高年収というやる気の燃料で、なんとか耐えることができていても、慣れによって、その燃料では体と心が動かなくなる。

そんな人を大勢見てきました。

この感覚を就活生の頃から持つことは難しいかもしれないですが、できることとしては、ぜひ給料以外の価値を考えてみてほしいと思います。

お給料以外の企業選びの軸を考える

例えば、僕が就活生の頃に「年間休日120日以上」という企業選びの軸を設けていました。これは日本企業の平均の年間休日が110~120日ほどなので、平均以上の休日数を必須としたのです。

この軸を設定するとき、ノートに次のように記載しました。

『休日が多いことは、休みで補給される精神と体力の余裕に月10万円ほどの価値があるだろう』

こう書いて視覚化したことで、反対に「休日が少ない企業は、それだけで月10万円の損害がある」と認識することができました。

他にも、残業時間についてこんなことをノートに書きました。

『平均の残業時間が短い会社の方が、仮に残業した時に、周りと差を付けることができる。この価値は月5万円以上に匹敵する』

あくまで感覚ですが、こうした感覚を金額として視覚化するだけでも、自分が会社を選ぶうえで何を大事にするかが分かります。

初任給の手取りが30万円で高いことだけでなく、他の労働条件・労働環境は総合的にどうなのか。ぜひ視覚化して、冷静に企業を選んでみてください。

就活は「入社できたらゴール」ではなく、「入社してからがスタート」です。

周りの友達がどの会社に入って、初任給が高いだの、気にする必要はありません。あくまで10年後、幸せでいられるかどうか。

今の時点で優劣を付ける必要はありませんから。

(本記事は『ありのままの自分で、内定につながる 脇役さんの就活攻略書』に関連する書き下ろしです