プレゼン資料は、「読ませるもの」ではありません。“込み入った話”を言葉だけで伝えようとすると、どうしてもまどろっこしい表現になり、非常にわかりにくい説明になりがちです。そんな時に必要なのは、伝えるべき内容の「本質」を、直観的に理解できるように「図解化」する技術。プレゼン資料は「見せるもの」なのです。そこで、累計40万部を突破した『社内プレゼンの資料作成術』シリーズの著者で、ソフトバンク在籍時には孫正義社長に直接プレゼンをして「一発OK」を次々と勝ち取った実績を持つ前田鎌利さんと堀口友恵さんに、プレゼン資料を「図解化」する技術を伝授していただきます(本連載は『プレゼン資料の図解化大全』から抜粋・編集してお届けします)。

スライド・デザインの「自由」が失われる
プレゼンソフトには、図解スライドを手軽につくることができるように、さまざまなレイアウトのフォーマットが用意されています。
たとえば、パワーポイントには「SmartArt」があり、その中から、つくろうとしているスライドに適したフォーマットを選択し、そこにテキストやデータなどを書き込んでいくことができるようになっています。
しかし、私たちは、スライド・デザインの自由度を損ねるため、こうした機能は使わないことをおすすめしています。【図-1】をご覧ください。

これは、フランチャイズ展開している小売業者(フランチャイザー)が、フランチャイジーが新規出店を検討する際に必要なデータベース(DB)の活用法を説明するプレゼン資料の1枚です。
このスライドでは、スライド・タイトルやグラフ、表組み以外の部分は、「SmartArt」を活用しているのですが、なんとなくパッとしないデザインのように見えます。しかも、「SmartArt」のフォーマットに制約があるため、テキストの改行がいびつな感じになっていますし、重要なグラフや表がとても小さく表示される結果となっています。
このように、「SmartArt」は便利ではあるかもしれませんが、実際には、こちらが意図したとおりのデザインに落とし込むことができないというジレンマに陥るのです。
情報が「ビジー」になりすぎないように工夫する
ですから、私たちは、基本的には「SmartArt」のような機能は使わずに、自分でテキストボックスや図形を挿入することで、自由にスライド・デザインをしたほうがいいと考えています。
【図-2】のAfterスライドをご覧ください。

第1の修正点は、「立地客層データ」「エリア分析」「物件オーナー提案」の3つのステップを矢羽根で表現したことです。
こうすることで、【図-1】のようにボックスと矢印を使うパターンよりも、かなりシンプルでわかりやすいデザインになります。このスライドのように、スライドに盛り込む要素が多い場合には、なるべく情報がビジーになりすぎないように、図形をできるだけシンプルにするほうがよいでしょう。
第2の修正点は、「SmartArt」の制約から解放されたことで、すべてのテキストを1行で表示できるように工夫したことと、最も見せたいグラフと表をできる限り大きく表示するようにしたことです。
そして、第3の修正点は、カラーリングです。このスライドは、「新規出店を検討する」ための、3つのステップを表現するものですから、【図-1】のようにそれぞれ異なる色を使うのではなく、【図-2】のように、同じ系統の色味で統一したほうが理解しやすいものになります。
「グラフ・表」だけを大きく見せる
しかし、【図-2】にも弱点があります。1枚のスライドで完結させようとすると、グラフと表を大きく表示しようとしても限界があります。これでは、「雰囲気はわかるけど……」という微妙な反応が返ってきそうです。
そこで、【図-3】のようにスライドを分割したり、アニメーション機能を使ったりすることで、【図-2】のスライドにアレンジを加えるといいでしょう。

ご覧のとおり、まず初めに①のスライドで、「立地客層データ」「エリア分析」「物件オーナー提案」の3つのステップという、このプレゼンの最も根本的な構造を見せます。
そのうえで、トークの進展に合わせて、緑の点線の部分をひとつずつアニメーションで見せていくことによって、“ネタバレ”を防ぎ、相手の興味を惹きつけます。
そして、③や⑥のように、最も見せたいグラフや表を全画面で表示するスライドを挟んでいきます。このようにすることで、グラフや表をしっかりと見せながら、3つのステップをスムーズに説明することができるわけです。
(本稿は、『プレゼン資料の図解化大全』より一部を抜粋・編集したものです)
1973年生まれ。ソフトバンクモバイルなどで17年にわたり移動体通信事業に従事。ソフトバンクアカデミア第一期生に選考され、プレゼンテーションにおいて第一位を獲得する。孫正義社長に直接プレゼンして幾多の事業提案を承認されたほか、孫社長のプレゼン資料づくりも数多く担当。2013年12月にソフトバンクを退社、株式会社固を設立して、プレゼンテーションクリエイターとして独立。2000社を超える企業で、プレゼンテーション研修やコンサルティングを実施。ビジネス・プレゼンの第一人者として活躍中。著書に『【完全版】社内プレゼンの資料作成術』『プレゼン資料のデザイン図鑑』『パワーポイント最速仕事術』(すべてダイヤモンド社)など。
堀口友恵(ほりぐち・ともえ)
埼玉県秩父市生まれ。立命館大学産業社会学部卒業後、ソフトバンクへ入社。技術企画、営業推進、新規事業展開などを担当する中で、プレゼンの経験と実績を積む。2017年に株式会社固へ転職し、スライドデザイナーとしての活動を始める。企業向け研修・ワークショップの担当や大学非常勤講師のほか、大手企業などのプレゼンのスライドデザインを担当し、のべ400件以上の資料作成やブラッシュアップを手がける。前田鎌利著の『プレゼン資料のデザイン図鑑』『パワーポイント最速仕事術』のコンテンツやスライドの制作にも深く関わった。ITエンジニア本大賞2020プレゼン大会にて、ビジネス書部門大賞・審査員特別賞を受賞。小学生向けのオンライン講座「こどもプレゼン教室」を運営し、子どもたちのプレゼンスキルアップの支援も行っている。