三井住友建設 クーデターの深層#7記者会見で握手するインフロニアホールディングスの岐部社長(左)と三井住友建設の柴田社長(右) Photo by Takayuki Miyai

準大手ゼネコンのインフロニアホールディングスは三井住友建設を買収すると発表した。三井住友建設は大型プロジェクト「麻布台ヒルズ」のマンション工事のトラブルで2022年3月期から2期連続で最終赤字を計上し、昨年初めには当時の社長が反社長派によって解任される“クーデター”も勃発していた。旧村上ファンドもじわじわと株式保有比率を引き上げる中、財閥系名門はインフロニアの軍門に下ることを選んだ。連載『三井住友建設 クーデターの深層』の本稿では、今回の買収劇の全内幕を明らかにする。実は、経営再建中だった三井住友建設に引導を渡した黒幕が存在する。その正体とは。(ダイヤモンド編集部 宮井貴之)

インフロニアの軍門に下った名門財閥
経営統合が実現すれば業界6位の売上高に

「建設業界では優勝劣敗が進み、差別化しないと勝ち残れない。建設以外の商社やデベロッパーなどとも差別化し、唯一無二の総合インフラサービス企業としてさらなる進化を目指す」

 5月14日、東京都内で開かれた記者会見でインフロニアホールディングス(HD)の岐部一誠社長は三井住友建設の買収を決めた理由についてそう説明した。

 早ければ7月にも株式公開買い付け(TOB)を実施して、三井住友建設の全株式を取得する。買い付け価格は1株当たり600円で、取得額は940億円となる見込み。経営統合が実現すれば、両社を合わせた売上高は鹿島建設や大林組など、大手ゼネコン5社に次ぐ6位の規模となる。

 インフロニアHDは前田建設工業や前田道路を傘下に持ち、2021年に持ち株会社に移行した。「脱請負」を掲げ、24年には日本風力開発を約2000億円で買収するなど業界再編を積極的に仕掛けるM&A巧者である。

 一方、三井住友建設は、03年に三井建設と住友建設が合併して誕生した財閥系のゼネコンだ。マンション建設や海外事業に強みを持つ。今回の経営統合は、財閥系の名門企業である三井住友建設にしてみれば、格下ともいえるインフロニアHDの軍門に下った格好だ。

 三井住友建設はここ数年ゴタゴタが続いてきた。大型プロジェクト「麻布台ヒルズ」の超高層マンションの工事で、度重なるトラブルを起こし、巨額損失を計上した。さらに、ガバナンス不全も露呈した。24年初め、社外取締役らが中心となり、メインバンクの三井住友銀行に同行出身の社長だった近藤重敏氏の解任を求める“連判状”を提出(詳細は『【スクープ】三井住友建設で社長解任の“クーデター”勃発!反社長派の取締役が三井住友銀に出した「連判状」の全容』)。24年4月に近藤氏は社長退任に追い込まれた。

 そして、アクティビスト(物言う株主)の攻勢にもさらされていた。旧村上ファンドは21年に三井住友建設の株式を取得。経営の混乱が続く中で、じわじわと株式を買い増していた。

 まさに経営危機にあった三井住友建設に電撃的に手を差し伸べる形となったのが、インフロニアHDである。では、この買収劇はなぜ起きたのか。実は、今回の経営統合に関しては黒幕が存在する。旧村上ファンドについては、「対話は重ねてきたが、今回の経営統合には関与していない」(三井住友建設・柴田敏雄社長)としており、主導者ではない。では、財閥系名門企業に引導を渡したのは誰なのか。

 次ページでは、黒幕の正体を明らかにするとともに、今回の再編の内幕を明らかにする。再編の引き金となった二つの要因を解説するほか、三井住友の名を冠した社名の行方と、現役員の去就についても解説する。