「病んでないふり」で、限界まで頑張ってしまう
――精神科や心療内科に行くのは「負け」だと思って、ギリギリまで我慢してしまう人も多いですよね。
さわ:本当に多いです。だからこそ、受診できる人はある意味、強い人かもしれません。でも実際には、病んでいないふりをして限界まで頑張っている人のほうが、ずっと多いと思います。
――しんどさを抱えていても、「まだ大丈夫」と自分に言い聞かせてしまうんですね。
さわ:そうなんです。風邪をひいたら内科に行くし、骨折したら整形外科に行く。それと同じように、精神的にしんどいときも、当たり前に医療を頼れる社会になってほしいですね。
SOSを出しやすい、受けとめられる社会に
――先日、子育てに疲れた母親が我が子を殺めてしまった事件もありました。その母親は事件を起こす前に何度も児童相談所に相談していたそうです。
さわ:実際どのような相談をされていたかまではわかりませんが、もしお母さんが一歩踏み込んで、「このままでは子どもに手をかけてしまいそうだから、子どもを預かってください」と言えたら、結果は違ったかもしれません。
――「預かってほしいなんて言うと、ダメな母親だと思われるかもしれない」と躊躇してしまうこともありそうです。
さわ:それは、「母親に子育てすべてを求めすぎる社会の空気」も原因だと思います。私自身も0歳と2歳の子を育てながらシングルになったとき、もちろん助けてくれる人もいますが、「弱音を吐くな」と言われたことも少なくありません。
――「弱音を吐くな」「もうちょっと頑張ろう」と言われてしまうと、「もう頼っちゃいけないんだ」と思ってしまいますよね。
さわ:社会にもっと優しさがあれば、救える人は増えるはずです。精神科医やカウンセラー、相談窓口の職員が足りないという問題もありますが、それだけでは解決できません。どう支えるか、誰が声をかけるかを社会全体で考える必要があると思います。
「大丈夫なふり」の奥にある声に、耳をすませる
――誰かの「大丈夫じゃない」を見逃さないためにも、私たち一人ひとりができることを、改めて考えたいですね。
さわ:そういう視点を持つきっかけとしても、本書『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』に触れてもらえたらうれしいです。
自分が悩んでいるときに読むのもよいですし、周りに悩んでいる方がいたら本書をすすめてあげるといいかもしれませんね。
「しんどいのは自分だけじゃないんだ」「周りに助けを求めていいんだ」と気づく人が一人でも増えたら、それだけで意味があると思います。
(本稿は『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』に関する書き下ろし特別投稿です)
塩釜口こころクリニック(名古屋市)院長。児童精神科医。精神保健指定医、精神科専門医、公認心理師
1984年三重県生まれ。開業医の父と薬剤師の母のもとに育ち、南山中学校・高等学校女子部、藤田医科大学医学部卒業。勤務医時代はアルコール依存症など多くの患者と向き合う。発達ユニークな娘2人をシングルで育てる母でもあり、長女の不登校と発達障害の診断をきっかけに、「同じような悩みをもつ親子の支えになりたい」と2021年に塩釜口こころクリニックを開業。開業直後から予約が殺到し、現在も月に約400人の親子を診察。これまで延べ5万人以上の診療に携わる。患者やその保護者からは「同じ母親としての言葉に救われた」「子育てに希望が持てた」「先生に会うと安心する」「生きる勇気をもらえた」と涙を流す患者さんも多い。
YouTube「精神科医さわの幸せの処方箋」(登録者10万人超)、Voicyでの毎朝の音声配信も好評で、「子育てや生きるのがラクになった」と幅広い層に支持されている。
著書にベストセラー『子どもが本当に思っていること』『児童精神科医が子どもに関わるすべての人に伝えたい「発達ユニークな子」が思っていること』(以上、日本実業出版社)、監修に『こどもアウトプット図鑑』(サンクチュアリ出版)がある。