仕事や家事、子育て、学校など、日々追われるなかで、自分の本音を後回しにして無理をする人は少なくない。誰にも弱音を吐けないまま、「大丈夫なふり」をして、日々をやり過ごしている人の間で話題の本がある。「悩んだときに心が軽くなる本」として注目を集めている『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』(クルベウ著/藤田麗子訳)だ。本書は自分のことよりも他人を優先して生きてしまう人たちの心に寄り添ってくれる1冊。今回は精神科医さわ先生に、本書の内容を踏まえつつ、現代の日本社会が抱える生きづらさについて話を聞いた。(取材:ダイヤモンド社・林えり、構成・文:照宮遼子)

【つらいのに大丈夫なふりをしてしまう】「死にたい」「消えたい」を抱える人たち。精神科医が語る、日本社会の「見えない生きづらさ」とは?Photo: Adobe Stock

「自分のしたいこと」よりも「周りに求められていること」を重視する社会

――今の日本は、「他人に迷惑をかけないこと」や協調性がことさら意識されている気がします。

精神科医さわ(以下、さわ):そうですね。日本の公教育は「和を乱さない」「空気を読む」ということが基本にあります。そうした教育のなかで育つと、どうしても「自分が何をしたいか」より「周りに何を求められているか」を先に考えるようになり、他人軸で生きるのが当たり前になってしまうんです。

――たしかに、「周りに合わせることが大事」という空気はありますよね。

さわ:そうした傾向は、『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』の中でも「人間関係が苦手な人は他人に自分のいい面だけ見せようとする」「気乗りしないときも相手の話を聴いてやる。心から共感できなくても共感したふりをしてしまう。」(p.147)と書かれています。こうなると、相手の目ばかり気にして、自分の気持ちがどんどん後回しになっていくんです。

――たしかに、嫌われたくない気持ちが先立つと、つい無理をしてしまいます。

さわ:そうやって無理を続けていると、本音を出すのが怖くなってしまいます。気づかないうちに心がじわじわと疲れて、人とかかわること自体がしんどくなるんです。

大人だけでなく、子どもも「死にたい」「消えたい」を抱えている

――SNSでも人間関係に疲れて、「人生をやめたい」といった投稿を見かけることがあります。

さわ:日本の幸福度ランキングは、先進国のなかでもかなり低く、とくに若者の自殺率が非常に高いです。韓国も同様の問題を抱えていますが、日本でも本当に深刻です。

――実際にはどういう場面で感じることが多いですか?

さわ:うちのクリニックにも、小学校高学年くらいから「死にたい」「消えたい」と訴える子どもたちが来ます。でも、こんなふうに助けを求めることができる子は、本当に一握りだと思います。

【つらいのに大丈夫なふりをしてしまう】「死にたい」「消えたい」を抱える人たち。精神科医が語る、日本社会の「見えない生きづらさ」とは?精神科医さわ先生 写真:照宮遼子