従って、ICC条約の締約国でさえないロシアのプーチン大統領に出されている逮捕状の罪状は、ウクライナに大軍をもって侵攻したこと、ではなくウクライナの子供たちをロシアや占領地に連れ去ったのではないか?という件に限られている。それなら侵略犯罪ではなく、従来型の戦争犯罪として問えるからだ。
「プーチン大統領へ逮捕状発行」というニュースを聞いた人は、恐らくその多くが、彼の今回の「悪行」の中心であるウクライナへの「侵略」によって逮捕状が出された、と思っているのではないだろうか?だが、そうではないのである。いまのICCは、プーチン大統領を「戦争を起こした罪」で裁くことはできないのだ。
だからといって、それでは今すぐICCに全世界の指導者を「侵略犯罪(=平和に対する罪)」で逮捕する権限を与えるべきだ!となるかと言えば、私はそうは思わない。
「ドラマ東京裁判」で、東京裁判の研究の第一人者として監修者の一人になっていただいた、日暮吉延帝京大学教授の言葉を借りれば「いまだ主権国家の力と利益がむき出しの国際社会にあってICCが侵略行為を裁くのは非常に難しいと思う」(中央公論2025年9月号)のが現実だ。
80年近く前の東京で、パル判事が言ったように「人類は未だ、戦争を犯罪として裁く段階に到達していない」かもしれないのだ。
「人は戦争を裁けるのか?」――東京裁判で問われ続けたこの問題は、未解決のまま、21世紀の私たちにも突きつけられている。