ハーバード大学教授であり、ハーバード行動洞察グループ(BIG)のディレクターを務める行動科学者トッド・ロジャース。行動科学で人を動かす方法を研究してきた彼が、「読まれる文章」「読まれない文章」の原理を突き詰め、科学的に正しい文章術として体系化したのが『忙しい人に読んでもらえる文章術』(トッド・ロジャース、ジェシカ・ラスキー=フィンク著、千葉敏生訳)だ。本稿では「人に迷惑をかけても平気な人」の特徴とともに、同書の内容を紹介する。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局 三浦岳)

相手の苦労に想像が及ばない
『忙しい人に読んでもらえる文章術』では、相手が一目で理解し、行動してくれる文章の条件が体系的に解き明かされている。本書の原則に沿って文章を書けば、相手は負担なく内容を理解し、スムーズに行動につなげやすくなる。逆に言えば、そうした条件を考慮せずにものを書く人は、相手に余計な負担を押しつけているといえる。
あなたのまわりにも、長文のぐちゃぐちゃなメールを書いて、相手に解読作業を押しつけてくる人がいないだろうか。これはまさに、「人に迷惑をかけても平気な人」の大きな特徴である。
行動科学の視点から見れば、こうした態度は相手の行動を止める強力な要因になる。相手は「何をしてほしいのか」がわからず、ただ時間と労力を奪われてしまう。つまり、書き手が「わかりやすさ」を軽視することは、読み手にとって迷惑になるのにとどまらず、その仕事やプロジェクト全体を妨げる深刻な障害になるのだ。
そうした相手に変わってもらうことは難しい。その意味では、まわりにそんな相手がいたらできるだけ関わらないようにしたいものだ。
一方で、自分はどうすればそんなはた迷惑な文章を書かずにすむのか。『忙しい人に読んでもらえる文章術』では、具体的にどんな文章が「行動につながらない」のか、その問題点を具体的に教えてくれる。以下、同書からの抜粋である。
読み手が行動しない「3つの理由」
読み手が依頼された行動を取ってくれない理由は主に3つある。
1つ目は、依頼の内容が理解できないから。
これは効果的な文章術の根幹にかかわる問題だ。メッセージを読み解くのに余分な労力が必要だとしたら、読み手が行動してくれる可能性はぐんと低くなる。途中で気が散ったり、相手の依頼を理解するのを先延ばししたり、理解するのをきっぱりとあきらめてほかの行動に移ったりしてしまうかもしれない。
その結果、仮に対応するにしても、迅速に対応するのが難しくなる。したがって、効果的な文章を書きたければ、メッセージの「わかりやすさ」に重点を置くことがまず大事だ。
2つ目は、それが重要な行動や必要な行動だと思っていないから。効果的な文章を書くうえで大事なもう1つの仕事は、そのメッセージが重要な理由、とくにその読み手にとって重要な理由を明確にすることだ。つまり、効果的な文章を書くには、メッセージの「重要性」を明確にする必要があるのだ。
最後の3つ目は、たとえ依頼の内容を理解し、対応する価値があると認めたとしても、行動を先延ばししたくなってしまうから。
行動に時間がかかる場合はとくにそうなりがちだ。頭では行動しなければと思っていても、なかなかそうはいかないのが人間だ。しばらくしてから再度通知するという手もあるが、先延ばしの誘惑が忍び寄る前に読み手が行動してくれるような状況をつくり出すほうがはるかにいいだろう。(中略)
しかし、忙しい読み手のための文章を書きはじめる前に、やらなければならないことがある。それは、あなたが文章を書こうとしている理由を明確にすることだ。
効果的なコミュニケーションのためには、まずあなたが「自分の目的」を正確に把握することが先決なのだ。(中略)書き手であるあなた自身、自分の目的がわかっていなければ、読み手にそれをうまく伝えることはできないだろう。
(本原稿は、トッド・ロジャース、ジェシカ・ラスキー=フィンク著『忙しい人に読んでもらえる文章術』〈千葉敏生訳〉からの抜粋です)