見た瞬間、「わかりやすいな」と思えるメールがある。一方で、一目で「うえっ…」と思って閉じたくなるメールもある。その差はどこにあるのか?
ハーバード大学教授であり、ハーバード行動洞察グループ(BIG)のディレクターを務める行動科学者トッド・ロジャース。行動科学で人を動かす方法を研究してきた彼が、「読まれる文章」「読まれない文章」の原理を突き詰め、科学的に正しい文章術として体系化したのが『忙しい人に読んでもらえる文章術』(トッド・ロジャース、ジェシカ・ラスキー=フィンク著、千葉敏生訳)だ。本稿では同書から特別に一部を公開する。

こんなメールはイヤだ
簡潔な文章を書くのに必要なのは、言葉を減らすことだけではない。伝えようとしている「内容」の数を減らすことも大事だ。友人からこんなメールが届いたとしよう。
このメッセージには少なくとも8つの内容がある。
1. 書き手は6時半の夕食を楽しみにしている。
2. 場所はイタリアン「ティナズ」。
3. 店の住所はオーシャンドライブ651番地。
4. 書き手が春に食べた店のグリッシーニは絶品。
5. 書き手は店のラザーニャはまだ試していない。
6. 書き手は店のラザーニャがおいしいと聞いた。
7. 書き手は6時15分に自分の家に集合してほしいと思っている。
8. サムとジョーイも夕食に参加する。
ものすごい情報量だ!
これは極端な例だが、誰しも経験のある「情報の詰め込みすぎ」の典型だろう。多くの人がこんなメッ
セージを受け取った経験があるのではないだろうか。
本来、1行で終わる話
このメッセージの書き手は、一見8つの内容をすべて伝えたがっているようだが、文脈から判断すると、もっとも大事なのは7番目の内容だろう。待ち合わせの時間と場所だ。
その他の内容を入れれば入れるほど、読み手がその重要な内容を見落としてしまう可能性が高くなる。
読み手が単語や内容の多さに面食らい、読むのをあきらめてしまうかもしれないし、全体を読んだとしても、ほかの7つの内容に惑わされ、書き手にとっていちばん重要な情報を忘れたり、見落としたりしてしまうかもしれない。
どちらにせよ、伝える内容の数を減らせば、読み手にもっとも重要なポイントを理解してもらいやすくなる。
このメッセージはこんなふうに要約できるだろう。
「夕食は予定どおり。6時15分にうちで待ち合わせよう」
(本原稿は、トッド・ロジャース、ジェシカ・ラスキー=フィンク著『忙しい人に読んでもらえる文章術』〈千葉敏生訳〉からの抜粋です)