見た瞬間、「わかりやすいな」と思えるメールがある。一方で、一目で「うえっ…」と思って閉じたくなるメールもある。その差はどこにあるのか?
ハーバード大学教授であり、ハーバード行動洞察グループ(BIG)のディレクターを務める行動科学者トッド・ロジャース。行動科学で人を動かす方法を研究してきた彼が、「読まれる文章」「読まれない文章」の原理を突き詰め、科学的に正しい文章術として体系化したのが『忙しい人に読んでもらえる文章術』(トッド・ロジャース、ジェシカ・ラスキー=フィンク著、千葉敏生訳)だ。本稿では同書から特別に一部を公開する。

【一発アウト】「メールで一瞬で嫌われる人」のイヤな文面・ワースト1Photo: Adobe Stock

こんなメールはイヤだ

 簡潔な文章を書くのに必要なのは、言葉を減らすことだけではない。伝えようとしている「内容」の数を減らすことも大事だ。友人からこんなメールが届いたとしよう。

今夜6時半の夕食、楽しみにしているよ。オーシャンドライブ651番地にあるイタリアン「ティナズ」にしよう。春にも食べたんだけど、あそこのグリッシーニは絶品なんだ。ラザーニャはまだ試していないけど、食べてみたいな。これもうまいらしいんだ。15分前にうちで待ち合わせて、店まで歩いて行くのはどうだい? サムとジョーイも来るからよろしく。

 このメッセージには少なくとも8つの内容がある。

 1. 書き手は6時半の夕食を楽しみにしている。
 2. 場所はイタリアン「ティナズ」。
 3. 店の住所はオーシャンドライブ651番地。
 4. 書き手が春に食べた店のグリッシーニは絶品。
 5. 書き手は店のラザーニャはまだ試していない。
 6. 書き手は店のラザーニャがおいしいと聞いた。
 7. 書き手は6時15分に自分の家に集合してほしいと思っている。
 8. サムとジョーイも夕食に参加する。

 ものすごい情報量だ!

 これは極端な例だが、誰しも経験のある「情報の詰め込みすぎ」の典型だろう。多くの人がこんなメッ
セージを受け取った経験があるのではないだろうか。

本来、1行で終わる話

 このメッセージの書き手は、一見8つの内容をすべて伝えたがっているようだが、文脈から判断すると、もっとも大事なのは7番目の内容だろう。待ち合わせの時間と場所だ。

 その他の内容を入れれば入れるほど、読み手がその重要な内容を見落としてしまう可能性が高くなる。

 読み手が単語や内容の多さに面食らい、読むのをあきらめてしまうかもしれないし、全体を読んだとしても、ほかの7つの内容に惑わされ、書き手にとっていちばん重要な情報を忘れたり、見落としたりしてしまうかもしれない。

 どちらにせよ、伝える内容の数を減らせば、読み手にもっとも重要なポイントを理解してもらいやすくなる。

 このメッセージはこんなふうに要約できるだろう。

「夕食は予定どおり。6時15分にうちで待ち合わせよう」

(本原稿は、トッド・ロジャース、ジェシカ・ラスキー=フィンク著『忙しい人に読んでもらえる文章術』〈千葉敏生訳〉からの抜粋です)