パトロールよりも、自転車検問に専心するようになる。そのほうが成果が出やすいからだ。
実際、布田交番に着任当初、夜間パトロールで地域の安全に貢献したり、クルマを職質して違法薬物を発見したいと意気込んでいた私を見て、神宮司センパイは「大物狙いしないで、自転車(検問)やって売上げあげたほうがいいよ」とアドバイスしてくれたのだった。
「売上げ」を狙う警察官にとって終電終了後から始発が動き出すまでの時間は「ゴールデンタイム」だ。とくに終点になっている駅はアツい。ここにタクシードライバーとともにおまわりさんが群がる。
アヤシイ人物を発見したら、まずひと声かけて停止を求め、自転車から降りてもらう。続いて、自転車に貼付してある防犯登録の確認。無線で署に防犯登録の番号を伝え*、登録ナンバーをチェック。乗っている人の名前と一致していることが確認できたら、感謝の意を伝え、挙手敬礼で締めくくる。
乗っている人と名前が一致しなかったり、自転車に盗難手配が出ていたりすると“リーチ”がかかる。目を逸らしたり、そわそわと体を揺らすなど挙動不審だと“激アツ”だ。パチンコと一緒で自然と心が浮き立ってくる。
ワクワクしながら事情聴取をスタート。「売上げ獲得」は目前だ。ただ、知人から借りている自転車だとか、乗っている本人が以前盗まれて被害届を出したあと自分で発見して乗っていたなんてガックリ来る“空振り”パターンもある。
指導巡査・神宮司センパイの教えはこうだ。
「どうしても売上げがあがんねーときの奥の手、教えてやっから。駅のそばに路上に放置してあるカギの壊れた自転車を見つけておくんだ。電柱の陰とか、ちょっとわかりづらいくらいがちょうどいい。で、それを離れたところから監視する。そのうち酔っ払いがやってくっから、それを待てばいい」
