
2003年、私は警察学校を卒業し、警察官人生をスタートさせた。約20年、色々な場所で勤務してきた。現場で汗を流す末端の警察官の、良いことも悪いことも含めたリアルな姿を描きたいと思う。※この記事は安沼保夫『警察官のこのこ日記』(三五館シンシャ)の一部を抜粋・編集したものです。登場人物は仮名です。
某月某日 バスタオル女子
駆けつけるゴンゾウ
秋も深まったある夜勤時、時計は午前1時を回っていた。
「調布管内、『バスタオル1枚姿の女性が外にいる』、110番*、PB員は現場へ。場所、調布市××町2丁目……」
受令機という小型ラジオサイズの機器からイヤホンを通じて連絡が入る。「PB」というのは「ポリスボックス」の略語だ。××町2丁目なら、うちの「PB」の管轄だ。私はすぐさま、外套と呼ばれる長い防寒コートを手に、浦口とともに現場に向かった。
現場はこのあたりでは名の知れた大邸宅の前で、駆けつけると20歳くらいの女性が本当にバスタオル1枚を巻いただけの姿で呆然と立ちつくしていた。その隣には高校生くらいの女性が付き添うようにしていた(彼女は服を着ていた)。
臨場中は「バスタオル姿の若い女性」に好奇心丸出しだったものの、その姿をいざ目の当たりにすると、どうしたらよいかオロオロする女性がかわいそうになる。すぐに持参した外套を羽織らせて話を聞くと、彼女はこの大邸宅の娘で、風呂あがりに父親に怒られて、そのまま外に放り出されたのだと言う。隣の女性は彼女の妹で、姉を心配して家から出てきたらしい。
チャイムを押して、「近所から通報があった」旨を伝えて、浦口と2人で自宅にあがらせてもらう。学校の教室ほどのリビングに、家電量販店でしか見たことない巨大テレビがあり、高級そうなソファーに酔っ払った父親が座っていた。
浦口は部屋に入るや、一言目に「娘さんを裸で外に出すなんて、あんた、ナニ考えてんだ!」と怒鳴る。売り言葉に買い言葉で父親も「部外者はすっこんでろ!」と激昂。もともと浦口は高圧的な口調でそれまでもいくつかのトラブルを招いていた。会って一言目にこんな言い方をしたら問題はこじれるだけだ。私は事態を収拾するためにできるだけ穏やかな口調で父親に話しかける。
「お父さん、まずは事情を聞かせてください」