
2003年、私は警察学校を卒業し、警察官人生をスタートさせた。約20年、色々な場所で勤務してきた。現場で汗を流す末端の警察官の、良いことも悪いことも含めたリアルな姿を描きたいと思う。※この記事は安沼保夫『警察官のこのこ日記』(三五館シンシャ)の一部を抜粋・編集したものです。登場人物は仮名です。
某月某日 渋谷駅前交番
現場実習・日勤篇
警察学校生活も折り返しをすぎると、現場実習*が行なわれる。全8教場、総勢300名を超える同期がシャッフルされ、3~6名程度の班に分けられて都内の各署に派遣される。都内と一言でいっても、新宿・渋谷といった繁華街から、あきる野市や奥多摩町のような辺鄙(へんぴ)な場所まで、実習先はまさに「ガチャ」である。
私の実習先は渋谷署だった。私のほかに5名が渋谷署に派遣されることになった。生まれも育ちも神奈川の私だが、大学時代には渋谷署にほど近い合気道道場に通っていたので多少土地勘がある。
「俺、渋谷なんて中学のときに家族旅行で1回しか行ったことないぞ」
不安がる山形県出身の同期・里村君に、「そんなに心配すんなよ。すぐ慣れるよ」なんてエラソーにアドバイスするくらいの余裕はあった。
派遣初日、渋谷署の教養係(実習生や転入者の受け入れなどを行なう部署)が同行して、私を含め6名の新人がぞろぞろと渋谷署内であいさつ回り*をし、管内の説明を受ける。そして、最後に翌日からの実習先交番が発表される。
「里村君は、宇田川ね」「三宅君は、道玄坂」「安沼君は、渋谷駅前」……。
1日約300万人が利用する渋谷駅とその周辺を受け持つのが渋谷駅前交番である。警視庁のホームページによると、道案内は1日平均約2000件、多いときには3000件にものぼる。ホームページには「すり、置引き、万引き、痴漢、けんかなどの犯罪が多発しており日本でも有数の『忙しい交番』となっています」とも書かれている。