
微細な肌の色味や透けて見える血管、複雑な指紋まで再現した人工乳房や義指、顔面補綴など――並ぶサンプルのリアルさに驚かされる。これらは「エピテーゼ」と呼ばれ、病気や事故による身体の損傷や先天性の欠損を補塡・修復する補綴具。群馬県のメディカルラボKでは、代表・萩原圭子氏が歯科技工士として培った技術力を生かし、オーダーメードのエピテーゼを手がけている。(取材・文/大沢玲子)

「機能性を補う義肢などと異なり、見た目と快適な装着感を追求しています」と萩原氏。「アピアランスケア」とも呼ばれ、心身の負担緩和、生活の質向上に貢献していくのが主な目的となる。
萩原氏がエピテーゼに出合ったのは、歯科技工士を目指し、通っていた専門学校時代だ。「資料写真の中から義眼を使った顎顔面補綴を見て、その精巧さに目を奪われました」と萩原氏。しかし、当時エピテーゼは、臨床分野では一般的でなく、学ぶ場所もなかった。
いったんは歯科技工士として働き始めるも、エピテーゼを手がけたいという探究心を抱き続けた萩原氏。2010年、エピテーゼの技術者養成スクールの存在を知り、歯科技工士を続けながら、基礎技術を取得。11年、父親が経営する歯科技工所でエピテーゼ製作部門を開設する。
歯科技工士の技術力で
高いクオリティーを実現
ただし、実際の経験値はゼロ。「まずは、乳がんを患ったことのある母親や知り合いのつてを頼り、無料モニターになってもらい、経験を積んでいきました」(萩原氏)。さらに、体の一部を失った人たちの思いや悩みを知るため、がん患者の会にも出向き、信頼関係を構築していく。県内のがん拠点病院や乳腺外来がある病院なども一軒一軒回り、エピテーゼの認知度向上のために奔走する。こうした地道な活動を経て、紹介が舞い込むようになり、23年には独立を果たした。