江戸時代、大阪・堺と並ぶ鉄砲の生産地として栄えた滋賀県長浜市国友町。その鍛冶技術やご当地の伝統行事である長浜曳山(ひきやま)祭の山車製作の匠の技を生かして生まれたのが、日本屈指の高級仏壇といわれる長浜仏壇(通称・浜壇)だ。(取材・文/大沢玲子)
浜壇の製造には素材となる木地の目利きから飾り金具、漆塗り、蒔絵、木彫りなどの職人技が必須となるが、「当店ではケヤキやヒノキなど天然の木地にこだわり、下塗りから上塗りまで本漆を使った手塗り、漆面を炭などで砥ぎ、つやを出す呂色(ろいろ)仕上げ、金箔押しなど多彩な技法を駆使し、すべて手作りで製造しています」。そう語るのは仏壇仏具店・宗永堂の店主・杉中伸安氏だ。
現代の住宅事情に合った
オーダーメードの仏壇製造
同店は創業約45年。杉中氏は2代目として家業を継ぎ、仏壇仏具製造の他、古くなった仏壇の修理、寺院修復なども手がけ、特に漆塗りで高い技法を持つ漆芸師として知られている。
また、近年では、本漆手塗り、呂色仕上げといった浜壇のこだわりはそのままに、マンションのリビングなどにも置けるコンパクトサイズの「小菊壇」もオーダーメードで製造。「お客さまのご予算、お好みに合わせた仕様で、世界でただ一つの仏壇を製造しています」と杉中氏。伝統を受け継ぎつつ、現代の住宅事情に合った仏壇の在り方も追求している。
こうしたチャレンジの一つとして、2019年より新事業としてスタートしたのが、今までにない漆の塗り上げが特徴の漆器ブランド「NUUL(ヌール)」の展開だ。
きっかけは、「長男の結婚祝いに、手作りの漆塗りの椀を贈りたいと考えたことでした」と振り返る杉中氏。
だが、一般的な技法で作る光沢感ある漆器は傷がつきやすく、洗い方や保管法など取り扱いが難しいのが難点だ。