仕事も勉強も、やる気はあるのに先延ばししてしまう。多くの人が抱えるこの悩みに、心理学の視点から答えるのが、新刊『すぐやる人の頭の中──心理学で先延ばしをなくす』です。著者は、モチベーションの研究を専門とする筑波大学人間系教授・外山美樹先生。今回は外山先生にインタビューを行いました。目標達成のための意外な秘訣として、「諦める」ことの重要性について深掘りしていきます。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

私たちの執着が止まらない理由
――目標達成のためには、粘り強く努力を続けることが大事だと、よく言われます。でも、この本では「諦めることも大切だ」と書かれています。これはどういうことなのでしょうか?
外山美樹(以下、外山):粘り強く頑張ることは、一般的に美徳とされているので、目標達成が非現実的な状況でも、なかなか諦められない人は多いんです。
客観的に見れば「諦めたほうが、むしろ良い結果につながるのでは?」と思えることでも、私たちはどうしても執着してしまうんですよね。
この本では、「サンクコストの呪い」という、心理学の話を紹介してますが、これまで費やした時間や労力が無駄になるように感じてしまって、必要以上にその目標に固執してしまうんです。
――すごくよくわかります。「無理そうだ」と頭でわかっていながら、頑張ることでなんとかしようと思うことってあります。
外山:そうですよね。でも、頑張ろうと思っても、本当に頑張って行動し続けられるとは限りませんよね。
例えば、ダイエットのために「週3回のジョギング」を目標にしている人がいるとします。でも、実はその人はジョギングが大の苦手で、この目標をなかなか達成できません。
続けられないし、効果も出ない。それでも「やらなきゃ、やらなきゃ」と自分を追い込んで、ストレスを抱えてしまう。
――まるで、私のことみたいです。
外山:誰にでも、こういうことってありますよね。
この場合、本当に目指していることは「ダイエットを成功させること」であって、「週3回ジョギングをすること」ではありません。
ジョギングが難しいなら、食事を変えたり、別の運動を取り入れたり、目標を変えてもいいはずです。
こんなふうに、1つの目標を諦めて、別の目標に切り替えたほうが、自分にとって良い結果につながることはたくさんあるんですよ。
それなのに、目標から離れるという選択肢が見えなくなってしまうんです。
諦めることは失敗じゃなく、「目標の切り替え」
――ダイエット以外の目標でも同じことが起こりますか?
外山:もちろん、あります。私は、大学でたくさんの学生さんを見てきましたが、そういった状況も、たくさん目撃しました。
第1志望の進学先や進路をなかなか諦められないケースは少なくありません。
目標が現実的に達成可能で、「頑張れば手が届きそう」というものであれば、諦めずに努力を続けることは大切です。
しかし、どう考えても難しいこともありますよね。そんな時、第1志望を諦めて別の道に進むことは、決して「失敗」ではありません。
恋愛でも同じです。好きな人に別の相手がいても、なかなか諦められない人もいますよね。
――勉強も恋愛も……。そう考えると、私たちは色々な目標をもって、日常生活を送っていると言えますね。
外山:そうですね。心理学が扱う目標は、とても身近なもので、「〇〇する」あるいは「〇〇しない」といった心の中に思い浮かべるイメージはすべて目標です。
だからこそ、目標の持ち方というのは非常に大事です。
目標の持ち方によって、もっとスムーズに行動を起こせたり、反対に望ましくない方向に進んでしまうことがあるんです。
「諦める」というと「挫折・失敗」といったネガティブなイメージと結びつきやすいですが、心理学では「目標から離れる」「解放する」という言い方をすることもあります。
1つの目標に執着して次の行動をとれず苦しんでいるのであれば、「別の目標への切り替え」だと考えてみてほしいです。
目標は、1つに縛る必要はありません。もし、何かに行き詰まっていると感じたら、視野が狭くなっている可能性もあります。
本当に自分が望んでいることは何なのかを整理して、別の選択肢はないか、別の目標に進んだらどうなるだろう、と考えてみてください。この本が、その助けになれば嬉しいです。