米移民の歴史的減少、雇用市場をどう変えるかPhoto:Anna Moneymaker/gettyimages

 ジェローム・パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は先週、米国の労働市場は「奇妙な均衡状態」に入ったと述べた。労働需要は冷え込んでいるものの、労働供給が急激に減速したため、失業率は安定を保っている。

 労働供給の減速の背景には、移民流入を巡る劇的な変化がある。米国史上最大級の移民の波が、ほぼゼロになったのだ。エコノミストらは、これが微妙ながらも長期的な影響をもたらす可能性があると指摘している。

 不法入国の事実上の停止に加え、国外退去の強化と外国人に対する環境の悪化により、今年の純移民数は数十年ぶりにマイナスになる可能性があると、一部の専門家は予測している。

 パウエル氏が示唆したように、これは短期的にはプラスの効果がある。労働需要の低迷が、現在4.2%と歴史的な低水準にある失業率を必ずしも押し上げるわけではないということだ。しかし長期的には、経済の潜在成長力を制限し、財政赤字を拡大させる可能性がある。

 米議会予算局によると、2010~19年の純移民数は年平均91万7000人だった。これが23年には330万人、24年には推計270万人に急増し、米国史上最大級の移民の波となった。

 アメリカン・エンタープライズ研究所に提出された最近の論文で、エコノミストのウェンディー・エデルバーグ、スタン・ボイガー、タラ・ワトソンの3氏は、今年の純移民数がマイナス20万5000人になると推定している(誤差はプラスマイナス約25万人)。これは不法移民の最小化と、通常の水準を67万5000~102万人上回る出国者数の急増によるもので、トランプ政権の政策に対応した国外退去と自主的な出国の増加を想定したという。

 年間純移民数がこれほど低水準で推移するのは1960年代以来だ。ただ当時はベビーブーマー世代が労働力として経済を支えていた。現在は彼らが退職しており、労働供給の移民への依存度が高まっている。