“某氏”が降りてきた朝、嵩が走り出す――昭和の“ダジャレ”から始まる創作の夜明け【あんぱん第113回】

帽子をかぶって掃除するのぶにもらったインスピレーションが

「自分の気持ちに正直に生きなさい」

 蘭子の様子の変化に気づいている羽多子は、娘の背中をそっと押す。

 このとき羽多子が力を借りたのは、亡き夫・結太郎(加瀬亮)の形見の帽子だ。それをかぶって、お父さんを自分がいかに愛していたか、すてきな夫との出会いがあってこれまで生きてこられたことを語る。

 ん? それじゃあ、亡くなった人を想い続ける派になってしまうのだが、そこでのぶ(今田美桜)。彼女は次郎(中島歩)と嵩(北村匠海)がいたからと言う。次郎の名前が出てホッとした。

 のぶは最初の夫を亡くしたけれど、嵩の魅力に気づいて再婚した。こういう生き方もある。

 豪との出会いがいまの蘭子を作っている、その事実は消えることはない。そして、いま、蘭子は羽多子とのぶ、どっちの選んだ生き方を選ぶだろうか。母のようにひとりの人のことだけ思って生きるか、のぶのように新たな心の支えを見つけるか。

 のぶが見つけたすてきな人――嵩。彼はのぶのすすめもあり、週刊誌の漫画懸賞に応募することにした。プロ・アマ問わずの募集だが、「一応プロだし漫画家歴だけはベテラン」(by嵩)なので受賞しなかったら恥ずかしい。のぶに「いごっそうになれ、嵩」と寛(竹野内豊)の似ていないモノマネで励まされるが、彼なりのプライドもあって、迷う。

 賞金をもらったら昔みたいに「かき氷とラムネ」をおごってと、のぶはねだる。戦前、嵩とのぶの幼い頃のきらきらした思い出の数々が、嵩を後押ししていく。

 それでもいつものパターンでなかなかいいアイデアが出ない。「こんなんじゃだめだ こんなんじゃだめだ こんなんじゃだめだ……」と碇シンジくんのように悩む日々。

 締め切りが迫る。のぶが帽子をかぶってリビングの掃除をしているのを見かける。

「お父ちゃんに願掛けをしている」のだという。これまでそんな習慣を1回も見せたことがないが、どうやら、ことあるごとに帽子をかぶってお祈りしていたらしい。いや、おおかた、その前の羽多子の帽子パフォーマンスに影響されたのだろうと思うのだが……。

 そのとき、嵩に何かが降りてきた!

 突如、頭のなかで、いろんな構想が膨らみだす。

 北村匠海は、インタビューでも、言葉数が多く、いろんなことが頭のなかで渦巻いているのだなと思うような喋り方をする。それが創作活動をしているときの嵩にはピッタリで、嵩のこういう場面をもっとたくさん見たかったと思うが、これから最終回までは、怒涛のごとく、作家・やないたかしの創作人生になっていくのかもしれない。

 嵩が思いついたのは――