
日本人の朝のはじまりに寄り添ってきた朝ドラこと連続テレビ小説。その歴史は1961年から64年間にも及びます。毎日、15分、泣いたり笑ったり憤ったり、ドラマの登場人物のエネルギーが朝ご飯のようになる。そんな朝ドラを毎週月曜から金曜までチェックし、当日の感想や情報をお届けします。朝ドラに関する著書を2冊上梓し、レビューを10年続けてきた著者による「見なくてもわかる、読んだらもっとドラマが見たくなる」そんな連載です。本日は、第112回(2025年9月2日放送)の「あんぱん」レビューです。(ライター 木俣 冬)
漫画家の世界旅行に誘われず、落ち込む
蘭子(河合優実)と八木(妻夫木聡)がさらに接近。ひとつの傘の下で……。
第112回の見どころはそこ一点で、『あさイチ』でもその話題でもちきり。朝の短いドラマは、このように、瞬間、わっと騒いで盛り上がれるようなことの連続であればいいのかも。ちょっとしたコミュニケーションツールや気分転換になる。
朝ドラとは「おめざ」(朝のお菓子)である。……などと朝ドラの価値を思いながら、順を追って見ていこう。
嵩(北村匠海)は売れっ子になって広いマンションにも引っ越せたが、相変わらず漫画家としては活躍できていない。健太郎(高橋文哉)から所属する漫画家集団・独創漫画派が世界旅行に行くと聞かされ、自分だけ呼ばれていないことにショックを受ける。
漫画家として認知されていない。その事実は嵩を苦しめる。
いせ(大森元貴)は嵩が売れっ子だから「妬んでるのかもね」となぐさめるが、嵩にとっては漫画家として売れていないことがなによりのコンプレックスなのだ。
これは、史実でも嵩のモデルのやなせたかしが漫画家仲間(漫画集団)の旅行に誘われなかったという事実が記録されている。この漫画集団には、当時活躍していた漫画家が所属していて、手塚治虫や赤塚不二夫、石ノ森章太郎、藤子不二雄もいたそうだ。
みんな漫画一本で勝負しているのに、やなせたかしは他のことにかまけているのだから、異端視されてもしょうがない気がする。やなせたかしはヤムおじさん(阿部サダヲ)のように、集団に完全に入り切らない風来坊的な存在だったのではないだろうか。あの人は自由だよね、的な。