名車「ワーゲンバス」の魂を継承する存在
フォルクスワーゲンにとってID. Buzzは、単なるEVの新モデルではない。フォルクスワーゲンにとって、“魂の継承”とも言えるプロジェクトである。その背景にあるのは、無論、1950年誕生のフォルクスワーゲンType 2、通称“ワーゲンバス”の存在である。
Type1(ビートル)のシャシーを延長し、わずか1131ccの小さな空冷水平対向エンジンをリアに積んだ初代は(当初の馬力は何と25psだ!)、ヨーロッパの働く現場で大活躍したばかりか、1960年代以降はアメリカ西海岸のカウンターカルチャーに見事に溶け込んでいった。ヒッピーの皆さんが愛用したワーゲンバスは「移動する家」であり「自由の象徴」でもあったのだ。
その熱気は今も冷めやらず、カリフォルニアではオリジナルのType 2がクラシックカー市場で高騰を続けている。状態の良い個体は数百万円から、物によっては1000万を超える値がつくこともある。朽ちたボディをコツコツとレストアし、鮮やかなツートンに仕上げるショップが人気になり、週末には磨き上げられた(あるいは外観はあえてボロボロのままの)ワーゲンバスを連ねて走るイベントが各地で開催されている。フォルクスワーゲン自身が過去に「Bulli(ブリー)」と呼んできたこのクルマは、単なる“乗り物”を超え、文化的なアイコンとして今も生き続けているのである。
日本では今年6月登場、6人乗りモデルと7人乗りモデルの2種類
だからフォルクスワーゲンが、2017年のペブルビーチで「ID. Buzzコンセプトモデルを市販する」と発表したときは、世界中のファンが大いに沸いた。ヒッピー文化をうっすら知るシニア世代も、半世紀以上も前の“大昔に勢いのあった文化”と認知する若い世代も、「あのバスがEVになって帰ってくる」という期待に胸を躍らせたのである。
ID. Buzzの量産は2022年、フォルクスワーゲン商用車のハノーバー工場で開始された。このクルマは乗用車ではなく商用車部門で造られている。短い前後オーバーハングと長いホイールベース。そして低重心という“バスらしさ”を、EV専用のMEBプラットフォームで実現。懐古趣味をまといながらも、安全性や快適性という時代のマストを取り込み、“現代のワーゲンバス”としてしっかりと仕立て直しているのである。
日本への導入は2025年6月。売り出して間もないクルマで、街中で見かける機会はまだまだ少ない。ラインアップは6人乗りの標準ホイールベース「Pro」(ショート)と、7人乗りのロングホイールベース「Pro Long Wheelbase」(ロング)の2車種。ボディ寸法はProが全長4715×全幅1985×全高1925mm/ホイールベース2990mm、Pro Long Wheelbaseが4965×1985×1925mm。ホイールベースは3240mmである。
搭載されるモーターはショート、ロングともに286馬力で、それを駆動するバッテリーはProが84kWh、Pro Long Wheelbaseが91kWh。航続距離はProが524km、Pro Long Wheelbaseが554kmである。
前述した通り、プラットフォームはEV専用のMEB。後輪駆動である。