整列する高校球児写真はイメージです Photo:PIXTA

第107回全国高校野球選手権大会(夏の甲子園)で椿事(ちんじ)が出来した。初戦に勝利した広島県代表の広陵高校が、野球部員による暴力事件がSNS上で大きく取り上げられたことで、2回戦への出場を辞退したのである。出場校が大会中に不祥事によって辞退するというのは、甲子園の長い歴史の中でも今回が初めてとのことである。本件については、日本高等学校野球連盟(高野連)や広陵高校に対する批判が喧(かまびす)しいが、たぶんに感情的で的外れなものも少なくないため、筆者の専門であるリスク管理の視点からポイントを整理しよう。(危機管理システム研究学会理事 樋口晴彦)

甲子園辞退の引き金となった「第1事件」
SNS炎上を招いた初動ミス

 最初に問題となった事件(以下、「第1事件」)は、2025年1月21、22の両日にわたり同校の寄宿舎(3学年で約150人の野球部員が集団生活)で発生した。2年生部員が被害者A君(1年生部員)の胸や頬をたたく、腹部を押す、胸ぐらをつかむなどの暴行を加えたものである。

 事件の契機は、A君が寄宿舎で禁止されているカップラーメンを食べたことであった。広陵高校では、事件を認知すると広島県高野連を通じて日本高野連に報告し、2月14日には報告書を提出した。

 その報告では加害者が計4人とされ、A君側の証言(計11人)よりもかなり少なくなっている。高野連の処分基準では、加害者数が10人以上になると処分が加重されるため、あえて人数を減らした可能性が否定できない。A君は3月末に転校したが、その後も学校側と保護者の協議は続けられ、7月には警察に対して被害届が提出されている。

 日本高野連では、広陵高校野球部に対して「厳重注意」を行い、暴力を振るった部員には、事件判明日から1カ月以内に開催される公式戦への出場禁止を言い渡した。この処分自体は、日本高野連が発表している処分基準に従った内容であり、決して処分が甘いというわけではない。

 ただし、この処分基準は本年から施行されたものであり、その内容があまり知られていないことを考えると、日本高野連側の説明不足により批判を招いたと言えよう。

 注意・厳重注意に関しては、日本高野連は原則として公表しない。そして広陵高校も第1事件について発表しなかった。その事情について、「被害生徒及び加害生徒の保護の観点から公表を差し控えてまいりました」と説明している。

 こうした配慮を理解できないわけではないが、結局はSNSで情報が流れて炎上し、大会開幕の翌日に急遽公表せざるを得なくなった。そして世間は、公表の遅れを「学校側による隠蔽(いんぺい)」と受け止め、炎上に拍車がかかるとともに、後述する2事件にも注目が集まることになった。

 甲子園に出場する以上は、こうした情報はいずれ漏れると考え、むしろ先制的にマスコミへの説明を行うべきであった。次ページでは、全ての会社組織がガバナンス向上に向けて教訓にすべき、広陵高校の病理を明らかにする。