トランプ氏が「欧州最強の指導者」と呼ぶ女性Photo:Andrew Harnik/gettyimages

【ブリュッセル】地政学的緊張が高まっていた6月、欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長は、カナダで開かれた先進7カ国(G7)首脳会談(サミット)で、ドナルド・トランプ米大統領と2人きりで話をしたいと考えていた。フォンデアライエン氏はトランプ氏の腕をとってソファに案内し、大統領の警護チームを驚かせた。そこで2人はウクライナや中国、貿易について協議した。

 フォンデアライエン氏の側近らによると、これは彼女がトランプ氏との溝を埋め、 大西洋を挟んだ冷え切った関係 を改善するのにつながった出来事の一つだった。

 7人の子を持つ母親で女性の健康問題を専門とする医師でもある66歳のフォンデアライエン氏は、EUが米国にとって価値のある存在だとトランプ氏に納得させようと数カ月にわたって尽力してきた。彼女とそのチームは、トランプ氏とのスタイルや政治的な違いを脇に置き、協調を探った。

 フォンデアライエン氏は、時に波乱含みだったキャリアから得た教訓を生かして自身のアプローチを形作った。トランプ氏に直接働きかけ、彼の言葉遣いを取り入れ、彼が嫌う特定の用語を避けるよう努めた。側近らによると、2人が話をする際、フォンデアライエン氏は要点をまとめた文書だけに頼ることなく、自身のレッドライン(譲れない一線)と目標を明確に示している。

 元欧州委員(競争政策担当)のマルグレーテ・ベステアー氏はフォンデアライエン氏について「目的達成に役立たない戦いは避けることができる人物だ」と述べ、トランプ氏との関係をうまく扱っていると付け加えた。

 その取り組みは成果を上げつつある。長年EUを批判してきたトランプは、ホワイトハウスで最近開かれたウクライナに関する会合で欧州の首脳らをたたえ、フォンデアライエン氏を欧州で最も影響力のある人物の一人と呼んだ。両首脳は会合で、ロシアに拉致されたウクライナの子どもたちの窮状について互いの発言に同調した。トランプ氏は、フォンデアライエン氏と交渉した貿易協定も称賛した。

 フォンデアライエン氏の戦略は現在、大西洋の両側から新たな試練に直面している。トランプ氏は最近、EUの技術規制を理由に新たな関税と貿易制限を課すと警告した。一部の欧州のビジネスリーダーと政治家らは、スコットランドにあるトランプ氏の施設で7月下旬に合意に至った貿易協定を非難し、フォンデアライエン氏が米大統領に屈服したと批判している。