ダーウィンの『種の起源』は「地動説」と並び人類に知的革命を起こした名著である。しかし、かなり読みにくいため、読み通せる人は数少ない。短時間で読めて、現在からみて正しい・正しくないがわかり、最新の進化学の知見も楽しく解説しながら、『種の起源』が理解できるようになる画期的な本『『種の起源』を読んだふりができる本』が発刊された。
長谷川眞理子氏(人類学者)「ダーウィンの慧眼も限界もよくわかる、出色の『種の起源』解説本。これさえ読めば、100年以上も前の古典自体を読む必要はないかも」、吉川浩満氏(『理不尽な進化』著者)「読んだふりができるだけではありません。実物に挑戦しないではいられなくなります。真面目な読者も必読の驚異の一冊」、中江有里氏(俳優)「不真面目なタイトルに油断してはいけません。『種の起源』をかみ砕いてくれる、めちゃ優秀な家庭教師みたいな本です」と各氏から絶賛されたその内容の一部を紹介します。

【カッコウは自分で子育てをせず、他の鳥に子育てさせる】ダーウィンが教える、カッコウに「托卵」という“奇妙な本能”が生まれた理由画像はイメージです Photo: Adobe Stock

カッコウの奇妙な本能

 カッコウの托卵は、とても有名な鳥の繁殖戦略だ。普通の鳥は自分で巣を作り、自分の卵を産んで温め、ヒナを育てる。しかし、カッコウは、自分で子育てをせず、他の鳥の巣に卵を産み、その鳥に育てさせるという習性を持っている。これを「托卵」と呼ぶ。

 ダーウィンは『種の起源』のなかで、以下のように語っている。

 カッコウの托卵という本能を生んだ原因は、カッコウが毎日ではなく2~3日おきに産卵することであると、現在では広く認められている。

 もしも自分で巣を作って抱卵するのであれば、最初に産んだ卵はしばらく抱卵されずに放っておかれるか、あるいは同じ巣に日齢の異なる卵や雛が同居することになってしまう。

 その場合、産卵から孵化までに長い時間がかかり、早い時期に渡りをするカッコウにとっては不都合である。また、最初に孵化した雛は、オス鳥だけで育てなければならないだろう。

 ところが、実際にアメリカのカッコウは、このような苦労をしている。アメリカのカッコウのメスは自分で巣を作り、卵や次々に孵化する雛を同時に抱えているのである。(中略)

 ここで、ヨーロッパのカッコウの祖先はアメリカのカッコウと同じ習性を持っていたものの、ときには他の鳥の巣に卵を産むこともあったと仮定しよう。(中略)そして、他の鳥の取り違えた母性本能で育てられた方が、いろいろな日齢の卵や雛を抱えて手一杯の実の母親に育てられるより元気に育つのであれば、托卵された雛の方が有利になるだろう。(中略)そうして育った雛は、母親の異常な習性を、遺伝によって受け継いでいる可能性が高い。

 そのため、そういう雛が大人になると、また卵を他の鳥の巣に産んで、雛を育ててもらうことが多くなる。こういうことが繰り返されれば、カッコウの奇妙な本能が生じることは可能だろうし、実際に生じたのだと私は信じている。(『種の起源』216-218頁)

托卵する理由

 カッコウの托卵という本能が進化してきたプロセスを実際に目撃することは、タイムマシンがなければできない。

 しかし、自然淘汰が作用したことを仮定すれば、その道筋を論理的に推測することはできる。『種の起源』にはいくつかの例が載っているが、ここではカッコウの托卵の本能について述べている部分を引用した。

 ちなみに、カッコウが托卵する理由は、現在でも完全には解明されていないが、体温が不安定な鳥が托卵する傾向はあるようだ。体温が安定した別種の鳥に卵を抱いてもらった方が、卵にとってよいのかもしれない。

 ダーウィンが想定した托卵の理由は正しくないかもしれないが、托卵の本能が生じていくプロセスの記述は正しいだろう。

(本原稿は、『『種の起源』を読んだふりができる本を抜粋、編集したものです)

更科功(さらしな・いさお)
1961年、東京都生まれ。東京大学教養学部基礎科学科卒業。民間企業を経て大学に戻り、東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。博士(理学)。専門は分子古生物学。武蔵野美術大学教授。『化石の分子生物学 生命進化の謎を解く』(講談社現代新書)で、第29回講談社科学出版賞を受賞。著書に、『爆発的進化論』(新潮新書)、『絶滅の人類史―なぜ「私たち」が生き延びたのか』(NHK出版新書)、『若い読者に贈る美しい生物学講義』(ダイヤモンド社)などがある。