人類の歴史は、地球規模の支配を築いた壮大な成功の物語のようにも見える。しかし、その成功の裏で、ホモ・サピエンスはずっと「借りものの時間」を生きてきた。何千年も続いた栄光は、今や終わりが近づいている。なぜそうなったのか? 『ホモ・サピエンス30万年、栄光と破滅の物語 人類帝国衰亡史』は、人類の繁栄の歴史を振り返りながら、絶滅の可能性、その理由と運命を避けるための希望についても語っている。竹内薫氏(サイエンス作家)「深刻なテーマを扱っているにもかかわらず、著者の筆致がユーモアとウィットに富んでおり、痛快な読後感になっている。魔法のような一冊だ」など、日本と世界の第一人者から推薦されている。本書の内容の一部を特別に公開する。
すべての種は必ず滅びる
ホモ・サピエンスは今、歴史上きわめて重要な時期にある。人類の波がこれまで絶えず膨らみ続けてきた中で、いよいよその頂点に達し、これからは引き始めるという、まさに転換点に立っているのだ。
今のように人口が多い時代ならではの、膨大な知の蓄積を活かすことができなければ、宇宙への進出は行き詰まり、やがて立ち消えてしまうだろう。すでに述べたように、偉大な発明を育てるには、何億人、場合によっては数十億人という規模の文明が必要だ。
二三〇〇年ごろには世界人口が一〇億人を下回るとする予測もある中で、資源は増えるどころかむしろ枯渇しつつある。
そうした未来を考えると、宇宙への進出は、人口が大きく減少して技術革新と創造力を支えきれなくなる前の、これから一世紀か二世紀のうちに、相当な段階まで進んでいなければならない。
だからこそ、私たちは今、このことについて真剣に考え始めなければならない。
まず私たちが認識すべきなのは、人類も例外ではなく、いずれは絶滅するという事実だ。長期的に見れば、すべての種は必ず滅びる。
古生物学者の故デイヴィッド・ラウプは、かつて皮肉を込めてこう語ったという。「おおざっぱに言えば、地球には生命など存在しない。なぜなら、これまで地球に現れた種の九九パーセントは、すでに絶滅してしまっているのだから」。
5回の大量絶滅とは?
種の絶滅は、いつの時代にも起きてきた。だが、地球の歴史には、ごく普通に起こる種の交代や舞台裏での静かな退場をはるかに上回る規模で、絶滅が怒濤のように押し寄せた時期がいくつか存在する。
過去五億四千万年のあいだに、こうした「大量絶滅」と呼ばれる出来事が少なくとも五回起きたことが知られている。
なかでも最も深刻だったのは、約二億五千万年前、ペルム紀の終わりに起きたものだ。連続的な超巨大火山噴火が有毒ガスを大気中に放出し、地球の平均気温を数度押し上げた結果、海ではおよそ九五パーセントの種が、陸では七〇パーセント以上の種が、数十万年という時間の中で姿を消した。
次に激しかったのは、六千六百万年前、白亜紀末の絶滅である。こちらのほうがよく知られているのは、そのきっかけが突発的かつ劇的だったからだ。
恐竜たちの絶滅と次の大量絶滅の可能性
小惑星の衝突が引き金となって、絶滅の波が一気に広がり、地球で最も有名な先史時代の生き物―恐竜たち―が、突然この世界からいなくなった。
そして今、人類が地球の生態系を支配する時代に入り、第六の大量絶滅がすでに始まっているのではないか、という懸念が広がっている。
現時点での科学的な見解では、ホモ・サピエンスが生物多様性にもたらしている影響は、過去の五大絶滅のレベルにまでは達していないとされている―少なくとも、まだそこまでには至っていない。
だが、もし人類が今の行動をあと五百年続けるようなことがあれば、そのレベルに達する可能性は高い。
(本原稿は、ヘンリー・ジー著『ホモ・サピエンス30万年、栄光と破滅の物語 人類帝国衰亡史』〈竹内薫訳〉からの抜粋です)
著者:ヘンリー・ジー
「ネイチャー」シニアエディター
元カリフォルニア大学指導教授。一九六二年ロンドン生まれ。ケンブリッジ大学にて博士号取得。専門は古生物学および進化生物学。1987年より科学雑誌「ネイチャー」の編集に参加し、現在は生物学シニアエディター。ただし、仕事のスタイルは監督というより参加者の立場に近く、羽毛恐竜や最初期の魚類など多数の古生物学的発見に貢献している。テレビやラジオなどに専門家として登場、BBC World Science Serviceという番組も制作。前作『
超圧縮 地球生物全史』(ダイヤモンド社)は、優れた科学書に贈られる、王立協会科学図書賞(royal society science book prize 2022)を受賞し、ベストセラーとなった。
訳者:竹内 薫(たけうち・かおる)
1960年東京生まれ。理学博士、サイエンス作家。東京大学教養学部、理学部卒業、マギル大学大学院博士課程修了。小説、エッセイ、翻訳など幅広い分野で活躍している。主な訳書に『宇宙の始まりと終わりはなぜ同じなのか』(ロジャー・ペンローズ著、新潮社)、『WHOLE BRAIN 心が軽くなる「脳」の動かし方』(ジル・ボルト・テイラー著、NHK出版)、『WHAT IS LIFE? 生命とは何か』(ポール・ナース著、ダイヤモンド社)、『
超圧縮 地球生物全史』(ダイヤモンド社)などがある。
自然科学と人文科学の間に見事に橋を渡し、人類の未来に対する深い洞察を与えてくれる――訳者より
ヘンリー・ジーの最新作『人類帝国衰亡史』は、ホモ・サピエンスの起源から絶滅の予兆までを描いた、壮大な叙事詩である。
全体は「台頭」「凋落」「脱出」の三部からなり、人類の物語をあたかも古代ローマ帝国の興亡になぞらえて描いている。
第一部「台頭」では、人類の祖先である初期ホミニンの登場から始まり、二足歩行という決定的特徴により他の類人猿と一線を画した道を歩み始めた経緯を語る。
第二部「凋落」では、ジーが指摘する「転落の始点」およそ五万~二万五千年前、ホモ・サピエンスが唯一の生き残った人類種となった瞬間――から、不可避の衰退が始まったとしている。
農業の発明、家畜化、都市化、そして人口爆発に至るまで、人類の繁栄がいかに生態系と自らの生存基盤を侵食してきたかを、遺伝的多様性の低下、農業依存、感染症の蔓延などの事例とともに描いている。
第三部「脱出」は、暗い未来の中に差す希望の光を描いている。ジーは、宇宙移住や技術的進化によって、人類が絶滅を免れる可能性を模索する。そのためには「一つの種」であることをやめ、多様な「ポスト・ヒューマン」への分岐を果たすことが必要だと主張する。
本書の主張は衝撃的だ――ホモ・サピエンスの衰退はすでに始まっており、絶滅は不可避、しかもそれは今後一万年以内に起こりうる、というのである。
しかし本書は単なる悲観論ではない。むしろ、「今が転換点だ」と、強く警鐘を鳴らし、私たちの選択と行動によって未来は変えられると示唆している。
この本が持つ意義は、まず第一に、人類史を扱う際の「時間スケール」を根本から問い直す点にある。本書は、進化生物学、古人類学、人口統計学、気候科学、未来学といった異なる学問領域を横断的に見渡し、人類の歴史を単なる文明の興亡ではなく、「生物の興亡」と位置づける。
それにより、読者は地球四十六億年の歴史の中で人類という存在が占めるわずかな時間の重みと、その有限性を直感的に理解することができる。
ところで、本書は自然科学の枠組みで書かれているが、文系読者にも強くオススメしたい。本書は、人類史をひとつの「物語」として味わうことができるよう工夫している。
科学的な事実を詩的かつウィットに富んだ言葉で描き出すジーの文体は、文学的素養を持った読者に強く訴えかける。加えて、本書は人間という存在を「時間」「空間」「存在」という三つの軸から捉えようとする学際的な試みでもあり、自然科学と人文学を統合する現代的な知のスタイルを象徴している。
科学と人文学の垣根を越えた本書は、理系・文系を問わず、人類の過去と未来に深い関心を持つすべての読者にとって、貴重な知的体験となるはずだ
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竹内薫氏(サイエンス作家)
「深刻なテーマを扱っているにもかかわらず、著者の筆致がユーモアとウィットに富んでおり、痛快な読後感になっている。魔法のような一冊だ」
けんすう氏・大絶賛!
「人類がそろそろ滅亡する理由がこれでもか?!ってほどわかります!」