地球誕生から何十億年もの間、この星はあまりにも過酷だった。激しく波立つ海、火山の噴火、大気の絶えまない変化。生命はあらゆる困難に直面しながら絶滅と進化を繰り返した。ホモ・サピエンスの拡散に至るまで生命はしぶとく生き続けてきた。「地球の誕生」から「サピエンスの絶滅、生命の絶滅」まで全歴史を一冊に凝縮した『超圧縮 地球生物全史』は、その奇跡の物語を描き出す。生命38億年の歴史を超圧縮したサイエンス書として、ジャレド・ダイアモンド(『銃・病原菌・鉄』著者)から「著者は万華鏡のように変化する生命のあり方をエキサイティングに描きだす。全人類が楽しめる本だ!」など、世界の第一人者から推薦されている。本書の発刊を記念して、内容の一部を特別に公開する。

“史上最大の陸上動物”「アルゼンチノサウルス」が70トンの体重を維持できたワケアルゼンチノサウルス」 イラスト:竹田嘉文(『超圧縮 地球生物全史』より転載)

巨大生物の問題点

 体がその体型を保ったまま大きくなると、体積は表面積よりもずっと速いペースで増大する。つまり、体が巨大化すると、体の表面に比べて体内がはるかに大きくなるのだ。

 そのため、体が必要とする食物や水や酸素を得るだけでなく、老廃物を排出したり、食べ物を消化することによる熱の発生など、ただ生きているだけでも問題が生じてくる。

 これは、体組織の容積に比べて、物質の出し入れに使える面積が縮まってしまうからだ。

 多くの生き物は微小なので、こうした問題は生じないが、このページの句読点より大きな生き物にとっては問題となってくる。

2つの解決法

 この問題の解決法は、第一に、血管や肺など、輸送に特化したシステムを進化させること。次に、体型を変えることによって、ラジエーターの役目を果たす拡張システムや入り組んだシステムをつくることだ。

 たとえば、ガス交換のみならず、余分な熱を放散させるという重要な機能を果たす、盤竜類(ペリコサウルス)の帆やゾウの耳や、肺の内部の複雑な構造などがそれだ。

 ほ乳類は、恐竜が支配する世界から解放され、アナグマ以上の大きさに成長できるようになると、成長にともなって体毛が細くて見えにくいものになったり、汗をかいたりして、この放熱問題を解決した。

汗と濡れた長い舌

 汗は皮膚の表面に体液を分泌する。

 それが蒸発するとき、皮膚のすぐ下にある細い血管から、液体の汗を気体に変えるのに必要なエネルギーが取られて、冷却効果を生む(訳注:気化熱が奪われてスーッとするのはこのため)。肺から吐き出される空気も熱を奪う。

 毛がふさふさしたほ乳類が、濡れた長い舌を露出させて、空気中に水分を蒸発させながらハーハー息をするのは、このせいだ。

最大の恐竜

 陸上でもっとも大きな陸生ほ乳類は、背が高く、ひょろりと華奢で、角のない、サイの親戚、パラケラテリウムだった。肩の高さは四メートルほどで、体重は二〇トンにもなった。

 しかし、最大の恐竜はそれよりもずっとずっと大きかった。

 体重七〇トン、体長三〇メートルのアルゼンチノサウルスなどの巨大な竜脚類は、史上最大の陸上動物の一つだが、その体表面積は体積に比べれば微々たるものだった。

 首や尻尾を長くして体型を変えても、容量の大きな体内から発生する熱を逃がすには充分ではなかった。

恐竜は太陽の下で…

 竜脚類はとても大きかったが、一般的に、大型の動物のほうが小型の動物よりも代謝がゆったりしている傾向があるため、概して体温が低めだった。

 このサイズの恐竜が太陽の下で暖まるには長い時間がかかったが、冷やすのにも同じくらい時間がかかったため、いったん体が暖まった恐竜は、単にとても大きいというだけの理由で、体温をかなり一定に保つことができた。

恐竜たちの遺産

 しかし、恐竜たちは、受け継いできた遺産があったからこそ、身を守り、ここまで大きくなることができたのだ。

 恐竜の肺は、ただでさえ大きいうえに、全身に張り巡らされた気嚢のシステムにまで広がっていたため、見た目ほど体重はなかった。

 また、骨のなかに気嚢があるせいで、骨格も軽かった。最大クラスの恐竜の骨格は生物工学の賜物であり、骨は体重を支える中空の支柱の集まりで、体重を支えない部分はできるかぎり少なくなっていた。

大きな恩恵

 重要なのは、気嚢の内部システムが肺から熱を奪う以上のはたらきをしていたことだ。

 この内部システムのおかげで、まず血液を通して、熱を体中へ運び、それから肺へ運び、その途中で熱の一部を放散させるという複雑なやり方をせずとも、内臓から直接、熱を取り去ることができた。

 大きな恩恵を受けたのは、たくさんの熱を発生させ、大型の恐竜では車ほどの大きさがあった肝臓だ。恐竜の空冷式の体内の仕組みは、液冷式のほ乳類の仕組みよりも効率的だった。

恐竜の後継者

 そのため、恐竜は(体内の熱で)生きたまま茹ってしまうことなく、ほ乳類よりもはるかに大きくなることができた。

 アルゼンチノサウルスは、体をもてあました巨体というよりは、敏捷な四足歩行の飛べない……鳥だった。

 というのも、恐竜の後継者は、同じく軽量な構造と、活発な代謝、空冷式システムを備えた鳥類なのだから。

(本原稿は、ヘンリー・ジー著『超圧縮 地球生物全史』〈竹内薫訳〉からの抜粋です)