累計18万部を超え、法律学習の入門書として絶大な支持を集めるベストセラーシリーズ。その最新刊『元法制局キャリアが教える 行政法を読む技術・学ぶ技術』が発売されます。著者の吉田利宏さんは、衆議院法制局で、15年にわたり法律や修正案の作成に携わった法律のスペシャリスト。試験対策から実務まで、行政法の要点を短時間で学べる1冊です。この連載では、本書から一部を抜粋し、行政法を読み解くポイントをどこよりもわかりやすく解説します。

公物とは?
公物(こうぶつ)という言葉は聞きなれないかもしれません。公物とは国や地方公共団体といった行政主体が直接、公の目的のために使用させている物のことをいいます。
たとえば、公園は「どうぞみなさんで使ってください」と行政主体が提供しているものですから公物です。市役所だって、市が庁舎として使っているわけですが、公の目的のための使用ですので、公物です。
公物の分類
公物はいくつかの視点で分類することができます。
まず、一般の人たちに直接、使用させているか、直接的には国や地方公共団体に使用させているかによる分類です。
公園、道路、河川のように、一般の人たちに直接、使用させているものを公共用物(こうきょうようぶつ)といいます。一方、直接的には国や地方公共団体に使用させているものを公用物(こうようぶつ)といいます。
これとは異なる分類もあります。人の手によって作られたものか、そうでないかの分類です。
人の手によって作られた公物を人工公物といい、自然の状態で利用させている公物を自然公物といいます。

公物の成立、公物の消滅
「いつから公物になるか」、「いつ公物でなくなるか」が公物の成立・消滅の問題です。
【公用物】
まず、公用物ですが、これは使用開始されたときが公物として成立したときになります。
たとえば、警察署として建てた建物を警察署として使い始めたら、そのときが公用物となったときといえます。
公物として消滅するのはこの逆です。警察署として使われなくなった場合には公用物ではなくなります。
【公共用物】
少し難しいのは公共用物です。
たとえば、道路を考えてみてください。道路として使える道を整備したからといって、それだけで公共用物になりません。「令和◯年×月△日 ◯◯地区から××地区への県道800メートル区間を供用開始します」と行政主体が意思表示を公にしてはじめて公共用物となります。
こうした行為を公用開始行為といいます。逆に公物でなくなるときも公用廃止行為が必要となります。
【自然公物】
自然公物の場合には、もともと存在してみんなが使用しているともいえるわけですから、公用開始行為というものがありません。
また、普通、公用廃止というケースも考えにくいですが、「川が完全に干上がってしまってもう戻らない」とか「立入禁止になった」などのように公物としての要件を満たさなくなった場合には公用が廃止されたと考えることができるでしょう。
公物と取得時効
公物は公共のために使われるものですが、これについて取得時効を認めるかどうかの議論があります。民法162条には取得時効の定めがあります。
(所有権の取得時効)
第162条 20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2 10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
たとえば、こんな例を考えてみましょう。
公園の角に縄を張って「ここは私の土地よ」と看板を立てて20年過ぎたとします。その土地はその人のものとなるかどうかです(民法162条1項が適用されるかどうかの問題)。

公物は公の目的のために使用させている物です。そのため民法の取得時効は適用されないと解釈されています。
しかし、公物であっても公用廃止行為があった場合は別です。もう公物ではないのですから、取得時効の対象となります。
問題なのは、特段、公用廃止の意思を示していないのに、公物としての外見を失っているような場合です。この場合に、取得時効を認めるかどうかという疑問が生じます。
これについては取得時効を認めた判決があります。黙示的な公用廃止があった(暗黙のうちに公用廃止があった)ものとしています。
判例:黙示的な公用廃止(最判昭和51・12・24)
(事件概要)
公図上は水路と表示されている国有地が長らく水田や畔に作り変えられ、その土地を売り渡されたものと信じ、平穏かつ公然に占有を続けていた者が10年経過とともにその土地を時効取得したものとして所有権確認の訴えを起こしました。
(判決)
公共用財産が、長年の間事実上公の目的に供用されることなく放置され、公共用財産としての形態、機能を全く喪失し、その物のうえに他人の平穏かつ公然の占有が継続したが、そのため実際上公の目的が害されるようなこともなく、もはやその物を公共用財産として維持すべき理由がなくなつた場合には、右公共用財産については、黙示的に公用が廃止されたものとして、これについて取得時効の成立を妨げないものと解するのが相当である
おさらいクイズ
次に挙げた公物のなかで、人工公物であって、かつ公共用物であるものを1つ選んでその記号を記してください。
解答
D 道路
【POINT】
・公物は利用目的から公共用物と公用物に分類することができます。
・公共用物は公用開始行為を経て公物となります。
・公物は取得時効の対象とはなりません。
・黙示的な廃止がなされたとされる公物について取得時効を認めた判例があります。
※本稿は、『元法制局キャリアが教える 行政法を読む技術・学ぶ技術』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。