再挑戦のため、ネットで寄付を募るクラウドファンディング(CF)で費用の調達を始めた。集まりが悪く、600万円の目標額の達成は難しいと思われた。その時、救世主が現れた。

 懸賞生活以降、疎遠になっていた土屋さん。ネット番組で協力を呼びかけてくれ、一気に寄付が集まった。土屋さんは「借りがあると思っていた。電波少年の出演者は全面的に応援すると決めていた」と振り返る。

 面白さを追求した結果、なすびさんの心を傷つけてしまったという後悔があった。直接会ってその気持ちを伝え、頭を下げた。

 15年越しの雪解けだった。

エベレスト頂上で叫んだ
「東北は絶対に復興する」

 登頂への道は険しかった。2度目は雪崩、3度目はネパール大地震で中止。心が折れかけたが、自分がやると決めた以上、諦めるわけにはいかなかった。

 16年5月、ようやくたどりついたエベレストの頂は、晴れ渡っていた。「ここが世界一高い場所なんだ」。涙がこぼれた。記録用のビデオカメラに語りかけた。

「人間、やればできるんです。福島、そして東北は絶対に復興します」。

 羽織っていたのは「ふくしま」の文字が記された法被だった。

 今も付き合いがある近藤さんは「バカがつくほどまじめ。何でもひたすら一生懸命に頑張る姿が、人の心を動かす。スターではないけど、人を前向きにさせる」と語る。

 東北だけではない。16年の熊本地震や24年の能登半島地震。災害があれば、ボランティアとして現地に赴く。根底にあるのは、東日本大震災の時に支援してもらった「恩返し」をしたいという思い。

 孤独のつらさが身にしみたから被災者に寄り添えるのだと思う。懸賞生活は「100億円積まれたとしても、2度とやらない」。でも、あの苦しみを乗り越えたから今がある。

 1人でも多くの人を笑顔にしたい。自分のやり方で、地道にコツコツ進んでいく。

レギュラーを務めるラジオ福島の番組収録に臨むなすびさん〈読売新聞提供〉 同書より転載レギュラーを務めるラジオ福島の番組収録に臨むなすびさん〈読売新聞提供〉 同書より転載

[2024年12月15日掲載/押田健太]

書影『「まさか」の人生』(読売新聞社会部「あれから」取材班、新潮社)『「まさか」の人生』(読売新聞社会部「あれから」取材班、新潮社)