ペプシコーラ、ケンタッキーフライドチキン、ピザハットを次々と再建し、「フォーチュン」や「ハーバード・ビジネス・レビュー」が選ぶ世界トップリーダーである伝説のCEOデヴィッド・ノヴァクが、成功者100人から得た知見を『Learning 知性あるリーダーは学び続ける』にまとめている。本記事では、一橋大学特任教授で経営学者の楠木建さんが執筆した監訳者まえがきの一部を特別に公開する。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

学習は現場にある
人の話を聞かなければ学習はできない。
会社の歴史を知りたければ、勤続25年のベテランに話を聞く。顧客の考えを知りたければ、カスタマーサービスに相談する。荷物を時間通りに出荷できないのなら、ドライバーと一緒に配達してみる。
社外にも目を向けるが、課題解決のためにコンサルタントを雇うことはほとんどない。その代わりに経験豊富な実務家やその分野で評判の高い本の著者に話を聞く。
特定の課題を解決するために専門家を招くときも、彼らに定番のスピーチを依頼することはない。その代わりにできるだけ多くのリーダーを会議に参加させ、集中的な質疑応答を行う。こうした中で具体的な方法や手法を学んでいく。学習は現場にこそある――これが著者の信念だ。
批判的な思考力を高める方法
その真骨頂がペプシのある工場の業績改善のエピソードだ。
その工場はペプシの工場の中で最も業績が悪く、1ケースあたりの収益は最も低かった。だからこそ経営課題を学ぶのに最適な場所だと著者は考えた。
現場を訪問すると、すぐに工場の責任者たちに問題があることがわかった。彼らは不満ばかり口にし、自分以外の誰かを非難した。誰も本当の問題を解決しようとしていなかった。著者が販売チームと製造チームに会い、「何がうまくいっていて、何を改善する必要があるか」と率直に尋ねたところ、彼らの答えは「何もうまくいっていなくて、すべてを改善する必要がある」だった。
現場のリーダーである彼らは会社の幹部に意見を聞かれることに慣れていなかった。しかし、著者が詳しく説明するように促してから口を閉ざすと、彼らは2時間ひたすらしゃべり続けた。著者は話に割り込みたい衝動を抑えて、彼らの話を聞き続けた。
最後に、工場のリーダーの1人が言った。「今までの話を聞いて、あなたはこの工場をどんなふうに良くしてくれるのですか?」
「何もするつもりはありません」と私は言った。彼らは驚いて私を見た。
「あなたたちは誰よりも問題をよく知っています。だから、問題を解決する最善策も知っているはずです」と私は言い、それまで意図的に話し合いのメンバーに含めていなかった工場長を呼んだ。
私は全員に向かって、「みんなで一緒に改善に取り組んでください。半年後にまたここに来て、進捗を確認します。その時、今この場にいる皆さん全員ともう一度会いましょう」と言った。
半年後、私は再び工場を訪れた。
工場のリーダーたちは玄関のドアの外に出て、私を歓迎してくれた。自分たちが取り組んできた改善、特にトラックの積み込みプロセスの効率化のために実施した変更を、早く伝えたかったからだろう。
批判的思考力を高めるための効果的な方法は、できる限り一次情報を得ることにある。
自分で直接情報に触れなければ、間接的な情報にまどわされてしまう。その結果、現実が見えにくくなる。
相手を信頼し、現場・現実・現物を直視することがアクティブ・ラーナーの条件であることを如実に物語るエピソードだ。
(この記事は『Learning 知性あるリーダーは学び続ける』をもとに、一部抜粋・編集し作成しました。)