ペプシコーラ、ケンタッキーフライドチキン、ピザハットを次々と再建し、「フォーチュン」や「ハーバード・ビジネス・レビュー」が選ぶ世界トップリーダーである伝説のCEOデヴィッド・ノヴァクが、成功者100人から得た知見を『Learning 知性あるリーダーは学び続ける』にまとめている。本記事では、一橋大学特任教授で経営学者の楠木建さんが執筆した監訳者まえがきの一部を特別に公開する。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

【一橋大学特任教授が教える】生成AI時代を生き抜くために「絶対読んでおくべき一冊」とは?Photo: Adobe Stock

成長するための1冊

 リーダーはどのように学び、成長するのか――本書は、学習がリーダーシップの核心であると考え、優れたリーダーがどのように過去の経験、他者との対話、そして実践を通じて自らを高めているのかを、具体的な事例を交えながら解説し、リーダーとして成功するための学習プロセスを示している。

 著者のイメージするリーダー像は「アクティブ・ラーナー(能動的な学習者)」。自らアイデアや知恵を探し求め、それを行動や実行に結びつけようとする人のことを意味する。教訓やアイデアが目の前に現れるのを待っているだけではアクティブ・ラーナーではない。アクティブ・ラーナーはどこにいても誰といても今すぐにポジティブな変化を起こすための学びの機会を探している。目的を持って学ぶことで、結果として自身や周囲に大きな可能性をもたらす。

大切なのは経験から学ぶこと

 著者は学習の方法を3つに分類している。第1に「周りから学ぶ(Learning From)」。人は自らの経験から多くを学ぶ。リーダーが自らの過去を振り返り、そこから重要な教訓を得ることは、意思決定力の向上にもつながる。特に幼少期の環境や生活経験がリーダーシップの形成に重要な役割を果たす。例えば、著者自身にしても、軍人の家庭で育ち、頻繁に引っ越しを経験したことにより、適応力とコミュニケーション能力が身についたと振り返っている。

 著者は、成功だけでなく失敗からも学ぶことが重要であると強調している。リーダーは困難や試練に直面したとき、ただ苦しむのではなく、それを成長の機会として捉え、次の挑戦に生かす必要がある。この「学習の姿勢」が、長期的なリーダーシップの発展を可能にする。

価値ある情報を見極める

 第2に「方法を学ぶ(Learning To)」。リーダーは常に学び続ける必要がある。そのためには積極的に知識を吸収し、他者の視点を理解する能力を磨くことが求められる。著者は、「聞く力」がリーダーシップにおいて極めて重要であると強調する。単に話を聞くだけでなく、相手の意図を正しく汲み取り、深い洞察を得るための質問をすることが、リーダーとしての資質を向上させるポイントになる。

 ただし、相手に同意するだけでなく、批判的思考を鍛えることが大切になる。批判のフィルターを通すことで、情報を正しく分析し、より的確な判断を下せるようになる。現代のビジネス環境では、膨大な情報が流通している。その中で本当に価値のある情報を見極め、適切な選択をする能力が問われる。本書は、そうしたスキルを向上させるための具体的な方法を紹介している。

実践するから成長できる

 第3に「実践して学ぶ(Learning By)」。理論や知識を学ぶだけではリーダーシップは向上しない。学んだことを実際に行動に移し、試行錯誤しながら成長することが重要となる。新しい挑戦を受け入れ、困難な課題に積極的に取り組むことがリーダーの成長に不可欠だ。

 シンプルな解決策を見つける能力は、リーダーシップにおいてとりわけ大きな強みとなる。シンプルでないと、実践できない。実践できたとしても、続かない。問題を複雑に考えすぎるのではなく、本質を見抜き、効率的に解決するためのスキルが求められる。さらに、学んだことを他者と共有し、チーム全体の学習効果を高めることもまたリーダーの学習の重要な側面だ――。

 本書の内容をごくかいつまんで紹介すると以上のようになる。さほどの新味はない。「ま、そうだろうな」という話にしか聞こえないかもしれない。しかし、抽象的なリーダーシップ論は本書の目的ではない。実際に成功したリーダーたちの学習プロセスを具体的に分析し、読者が実践できる知識を提供しているところに本書の価値がある

 しかも、わかりやすい言葉で書かれており、専門的な知識がなくても理解しやすい内容になっている。各章に具体的なアクションプランが提示してあるので、読者はすぐに実践できる。徹底して実践の書だ