
減量薬に「錠剤」という新たな選択肢が登場する。これまで脱肥満革命をけん引してきた週1回の注射ではなく、1日1回服用する経口薬だ。
錠剤が選択肢となる根拠はこうだ。注射を好まない人や、錠剤の方が便利だと思う人がいる。また薬剤メーカーにとって、錠剤は複雑な注射薬に比べて製造が容易でコストも抑えられる。デンマークの製薬大手 ノボノルディスク の「ウゴービ」や米同業 イーライリリー の「ゼップバウンド」といった人気の高い肥満症治療薬の注射よりも、価格が安くなる可能性がある。
「多くの患者が、効果を実感できなかったり、副作用があったりという理由で、さまざまな薬を試しており、何か新しいものを求めている」。ジョージア州アトランタ地区の肥満症専門医で、米国臨床内分泌学会の会長を務めるスコット・アイザックス医師はこう述べた。「別の選択肢に切り替えられることは、多くの人に魅力的だろう」
ノボノルディスクの「ウゴービ」と糖尿病治療薬「オゼンピック」の主成分であるGLP-1受容体作動薬セマグルチドの錠剤版は、減量目的で承認される初のGLP-1経口薬となる見込みだ。ノボノルディスクが米食品医薬品局(FDA)に提出した承認申請は、年内に決定される見通しで、早ければ2026年初めまでに発売される可能性がある。
一方、イーライリリーの経口減量薬は、新たな主成分としてGLP-1受容体作動薬オルフォルグリプロンを配合し、注射剤「ゼップバウンド」の主成分であるGLP-1薬のチルゼパチドとは異なる作用機序を持つ。オルフォルグリプロンは食欲抑制効果のある消化管ホルモンを模倣するが、ゼップバウンドのように2種類の消化管ホルモンを模倣するわけではない。研究結果ではゼップバウンドよりも効果が低いことが示唆された。年内にFDAに承認申請を提出する予定で、2026年中の発売が期待されている。
英 アストラゼネカ やバイオ医薬品会社 ストラクチャー・セラピューティクス など他の企業も、試験に成功すれば数年以内に市場に投入可能な経口薬を開発している。
新たな経口薬は、注射薬とトレードオフの関係にあるかもしれない。研究では、減量効果が注射剤ほど大きくない可能性が示されている。また錠剤は注射剤に比べ、吐き気など消化器関連の副作用を起こしやすいとも考えられる。医師やアナリストは、軽度の減量が必要な人には錠剤が最適だが、重度の肥満症患者には注射を続ける必要があるかもしれないと指摘する。