
薬価引き下げ圧力など業界環境が逆風の中、「革新的新薬」の開発力が問われている医薬品セクター。特集『5年後の業界地図2025-2030 序列・年収・就職・株価…』の#3では、肥満症薬の開発に期待が高まる中外製薬、大型のがん治療薬で躍進を目指す第一三共、復活の兆しが見え始めた武田薬品工業など主要企業の戦略を解説しつつ、今後の勢力図を大胆に予測する。不景気に強く大手を中心に高給で知られている業界だが、今後は新薬開発次第で序列が変化し、業績も株価も年収も格差が広がる可能性が高い。このままでは沈みかねない企業や開発中の有望な薬についても具体的に紹介する。(ダイヤモンド編集部 篭島裕亮)
薬価引き下げ圧力が強く
革新的新薬の開発が不可欠に
がん、生活習慣病、新型コロナウイルス感染症……。世界的に高齢化が進行する中、新薬開発への期待が高まっている医薬品セクターだが、事業環境は明るくないどころか年々厳しさを増している。どういうことか。
まずは世界的な薬価の引き下げ圧力だ。医療費の高騰は先進国共通の課題であり、国内では2021年度から薬価引き下げにつながる「毎年薬価改定」がスタートした。
詳しくは後述するが、医薬品セクター特有のリスクとして「大型製品のパテントクリフ(特許の崖)」が避けられない中、新薬開発の難易度も上昇している。
さらに直近では米トランプ政権による関税政策や、米国の薬価を他の先進国の最も安い水準に合わせる最恵国待遇政策が追い打ちをかける。端的に言えば、高齢者が増えて薬の使用量が増加しても、簡単にはもうかりにくい状況になっているのだ。
実際、医薬品セクターの株価はさえない。24年初から25年6月17日までにTOPIX(東証株価指数)は17%上昇しているが、医薬品セクターの株価は2%下落している。
大和証券の橋口和明シニアアナリストは医薬品セクターについて、景気との相関が小さく、製品のライフサイクルが比較的長いために先を見通しやすいという意味ではディフェンシブな業界だと前置きをしつつ、中長期では薬の開発次第で業績が上にも下にも大きく振れやすいと強調する。
「薬の研究開発の成功確率は低い。研究開発費も高騰しており、制度改定の影響も受けやすい。近年はハイリスクハイリターンの度合いが一段と高まっている。古い薬や二番煎じの薬への価格抑制圧力がますます強くなっており、一定のリスクを取って革新的な新薬を開発しないと十分な対価を得ることが難しくなってきている」(橋口氏)
UBS証券の酒井文義アナリストは「医薬品セクター特有の課題であるパテントクリフへの対応を含めてビジネスモデルに厳しい目が注がれている。また、日本企業は新型コロナのワクチン開発競争でも存在感を発揮できず、国内志向や開発力が問われたことで厳しい評価を受けた。大手メーカーの中には最初から取り組む意欲がない企業もあった」と指摘する。
一方、医薬品業界は個別性が強い業界であり、画期的な新薬を開発すれば業績を飛躍的に伸ばすことができるセクターでもある。この10年は革新的な新薬を開発した中外製薬や第一三共が躍進し、かつて圧倒的王者だった武田薬品工業を時価総額で抜き去った。
「個別企業の株価は明暗が分かれているが、これは外的な要因を自力で打ち返すだけの材料を持っているかどうかに違いがあるからだ。相対的に頑張ってきたのが、中外製薬と第一三共、大塚ホールディングスだ」(酒井氏)
これから5年、革新的な新薬を開発して業績、株価が飛躍する企業はどこか。製薬大手は平均年収1000万円を超えるエリート集団だが、今後は薬の開発次第で序列が変化して年収にも差がつく可能性がある。
次ページでは取材で浮かび上がったキーワードや各社の戦略を紹介しつつ、中外製薬の肥満症薬や第一三共のがん治療薬など業績をけん引する薬やパイプライン(新薬候補)による明暗を具体的に解説。「武田薬品は株価をアイルランドの製薬大手シャイアー買収前に戻せるのか」や「環境が激変する米国市場に強いのはどの会社か?」など主要プレーヤーの今後5年間の動向や平均年収の変化、勝ち組・負け組候補を具体的な企業名とともに明らかにする。
