20代で社長就任→早々に倒産、全てを失った先に見つけた「本当の天職」
文芸作品を読むのが苦手でも大丈夫……眠れなくなるほど面白い文豪42人の生き様。芥川龍之介、夏目漱石、太宰治、川端康成、三島由紀夫、与謝野晶子……誰もが知る文豪だけど、その作品を教科書以外で読んだことがある人は、少ないかもしれない。「あ、夏目漱石ね」なんて、名前は知っていても、実は作品を読んだことがないし、ざっくりとしたあらすじさえ語れない。そんな人に向けて、文芸評論に人生を捧げてきた「文豪」のスペシャリストが贈る、文芸作品が一気に身近になる書『ビジネスエリートのための 教養としての文豪』(ダイヤモンド社)。【性】【病気】【お金】【酒】【戦争】【死】をテーマに、文豪たちの知られざる“驚きの素顔”がわかる。ヘンで、エロくて、ダメだから、奥深い“やたら刺激的な生き様”を大公開!
※本稿は、『ビジネスエリートのための 教養としての文豪』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。
イラスト:塩井浩平
「ショートショートの神様」は
財閥の御曹司
順風満帆ではなかった若き日
白衣を脱ぎ、背負った父の遺産
SF作家・星新一は、一代で立身出世した優秀な実業家のもとに生まれ、順風満帆な人生を送ったんじゃないかと思われるかもしれませんが、そうではないのです。
昭和26(1951)年、父の星一が肺炎により77歳で急死します。新一が24歳のときのことです。
東京大学農学部に入り、農芸化学や医学について勉強していた新一は、このときすでに同人誌にショートショート作品を発表するなどして、小説の執筆を始めていました。大学院に進んで博士号をとる準備を進めていましたが、父のあとを継ぐため、大学院を中退し、星製薬の社長に就任することになりました。
学生社長を待ち受けた茨の道
裏切りと軋轢、理想と現実の狭間で
しかし、第2次世界大戦で工場が消失するなどして星製薬は戦後、経営不振に陥っていたのです。
ひたすら勉強に励んでいた学生が突如、経営不振に陥っている製薬会社の経営者になったわけですから、相当な戸惑いや軋れき、苦労があったことでしょう。実際、まわりの人に裏切られたり、揉めたりと、人間関係でのいざこざもあったようです。
あまりにも早すぎた経営破綻
億万長者へのバトンタッチ
結局、社長に就任した翌年の昭和27(1952)年、経営破綻し、新一は早々と会社を手放すことになりました。その後、破綻処理と経営譲渡に追われることになります。
新たに経営者となったのは、戦後の日本で「三大億万長者」と呼ばれていたうちの1人で、のちに「ホテルニューオータニ」を創業した大谷米太郎でした。
全てを失った先に見た光
文豪・江戸川乱歩との運命的な出会い
経営から離れた新一は、父親が設立していた星薬科大学の非常勤理事として収入を得ながら、しばらくは決まった仕事もせずに生活を送りました。
その後、同人誌で発表していた作品が、江戸川乱歩が編集長だった雑誌『宝石』に転載され、プロデビュー。乱歩自身は若いころ、ニートのような生活をしていましたが、そんな乱歩が大御所作家になり、新一の作品が広まるきっかけをつくったのかと思うと、不思議な縁を感じます。

