「みんながそうしているから」「正解だと言われているから」。――そんな理由でお金を使うほど、人は幸せから遠ざかっていく。そう指摘するのが、世界的ベストセラー『アート・オブ・スペンディングマネー 1度きりの人生で「お金」をどう使うべきか?』だ。同書は、お金の使い方こそ人生の満足度を大きく左右すると説く。では、幸せな人はどのようにお金と向き合っているのか。その核心に迫る。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

幸せな人が「お金を使う前」に必ず考えている“たった1つのこと”Photo: Adobe Stock

お金の問題に「唯一の正解」はない

「車は持っておくべき」「時計にはお金をかけろ」「持ち家こそ正解」――。

世の中には「こうあるべき」というお金の価値観があふれている。

しかし、こうした“一般論の正解”こそが、人を不幸にする――そう指摘するのが世界的ベストセラー『アート・オブ・スペンディングマネー』だ。

お金の問題の多くは、世間で「こうあるべきだ」と言われている方法でお金を使ったり貯めたりしているのに、それが自分の価値観に合わないことから生じている。人々は、本来はとても個別的であるはずの問題に対して、万能薬を求めている。
――『アート・オブ・スペンディングマネー 1度きりの人生で「お金」をどう使うべきか?』より

本来、幸せを決めるのは「自分が何を望むか」だ。にもかかわらず、お金のことになると、人は“他人の正解”をなぞりはじめる。その結果、満たされない、不安が消えない――そんな歪みが生じる。

「好み」は誰もが違うのに、なぜお金だけ同じ基準を求めるのか?

著者は、さらにわかりやすい例を示している。

「イタリア料理が好きな人もいれば、メキシコ料理が好きな人もいる」という考えは、誰もが理解しているだろう。これはどちらが正しいとか間違っているとかではなく、単に好みの問題だ。
 しかし、「どんな家に住むか」「どんな服を着るか」「いつリタイアすべきか」「どれくらいの頻度で旅行に行くべきか」「どんなレストランで食事をすべきか」といった問題になると、同じ考え方ができなくなる人が多い。
――『アート・オブ・スペンディングマネー 1度きりの人生で「お金」をどう使うべきか?』より

食べ物の好みに「正解」はない。しかし不思議なことに、お金の使い方になると、私たちは「唯一の正解」を求めてしまう。

こうした“世間の正解”が、気づかないうちに私たちの意思決定を歪めていく。

・旅行が好きなのに、「貯金すべき」という空気に飲まれて我慢する
・家が狭くても気にならないのに、「広い家=成功」という価値観に惑わされ住宅ローンを抱える
・早期リタイアに興味がないのに、FIRE情報に振り回され不安になる

これらはすべて、“自分の価値観ではなく、世間の価値観でお金を使っている状態”である。

著者は、こうも指摘している。

お金との関係がいかに個人的かつ感情的なものかを理解して初めて、この道のりは周りの声に惑わされずに自らの判断で進むべきものであると気づけるようになる。
――『アート・オブ・スペンディングマネー 1度きりの人生で「お金」をどう使うべきか?』より

つまり、お金の使い方に「正解」はなく、「自分に合ったものを選ぶ」ことが大切なのだ。

“自分の人生”を生きるために、お金の使い方を問い直す

ではどうすれば、自分に合ったお金の使い方になるのか?

ポイントはたった一つ。「これは“私”が望んでいる支出なのか?」と問い直すこと。

世間の目に合わせた支出は、どれほど使っても幸福度は上がりづらい。反対に、自分の価値観と一致した支出は、金額の大小に関係なく満足度が高い。

・カフェに毎日行くのが幸せなら、それは「正解」
・ブランド物に興味がないなら、無理に買う必要はない
・家より旅にお金を使いたい人は、それが「正しい」

すべては「その人固有の価値観」によって決まるのだ。つまり、あなたのお金の使い方の正解は、“あなた自身の中”にしかない。

今日の支出は、「周りがそう言うから」なのか、それとも「自分が本当に望んでいるから」なのか。その一つひとつを問い直すことこそが、人生の幸福度を大きく左右するのだ。

(本原稿は、『アート・オブ・スペンディングマネー 1度きりの人生で「お金」をどう使うべきか?』(モーガン・ハウセル著・児島修訳)に関連した書き下ろし記事です)