「失敗」はキャリアの終わりではない
星新一の経験は、現代を生きる私たちビジネスパーソンに多くの示唆を与えてくれます。順風満帆に見える人生も、一つの出来事をきっかけに大きく揺れ動く様は、決して他人事ではありません。
経営者としては、悪化していた事業の処理に追われ、のちに譲渡・再建という厳しい決断を迫られました。しかし、この強烈な原体験こそが、その後の創作活動の源泉となったことは想像に難くありません。
若くして経験した組織の力学、人間の欲望や裏切り。それら全てが、後の作品に描かれる人間社会の縮図へと昇華されていったのでしょう。最大の挫折が、未来への最大の資産に変わりうることを彼の人生は教えてくれます。
キャリアは一本道ではない
農芸化学の道から、製薬会社の社長、そしてSF作家へ。彼のキャリアは、一直線ではありません。予期せぬ形で専門外の領域に足を踏み入れることは、現代のビジネスシーンでも頻繁に起こります。
その挑戦と挫折のすべてが、自分だけのユニークな価値を形作るのです。
「天職」は回り道の先にある
もし彼が製薬会社の経営に成功していたら、「ショートショートの神様」は生まれなかったかもしれません。人生の回り道や一見無駄に思える時間こそが、本当に進むべき道、すなわち「天職」へと続く扉を開く鍵となるのです。
星新一の若き日の苦闘は、キャリアの岐路に立ったり、困難に直面したりしたときに、私たちの背中を力強く押してくれるでしょう。
※本稿は、『ビジネスエリートのための 教養としての文豪』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。







