コウセイは中学3年生。食べ盛りだ。満腹になっても2時間もすれば腹が空く。朝昼晩以外に夕方と夜遅くに食べる。つまり1日5食。さらに毎食の量は人の2倍。となると単純計算すれば1日10食分ということになる。
そのすべてを母親の手料理にしてもらうことは無理だ。まだ15歳だけどそのくらいのことはわかる。もしもそんな要求を口にしたら、母親は「私の1日はあなたの食事を作ることだけで終わってしまう」と怒り狂うだろう。だから10食中5食は、カップヌードルやレトルトカレーだ。ポテトチップスや菓子パンなどで済ませる場合もある。
姉は2人いる。2人ともダイエットを気にしている。バナナダイエットにリンゴダイエット。蜜柑ダイエットにパイナップルダイエット。
要するにフルーツをたくさん食べるダイエットがお気に入りらしい。でも効果はほとんどないようだ。こんにゃくダイエットも一時はよくやっていた。だから家には、こんにゃくゼリーがたくさんある。別にダイエットするつもりはないけれど、時おりコウセイも、お腹が空いたときはこのこんにゃくゼリーを口にする。けっこう旨い。腹持ちもする。1個のつもりが2個。2個のつもりが3個。そんな調子であっというまに食べてしまう。
ところが最近、家にこのこんにゃくゼリーがない。理由がよくわからない。買い物に行く母親に「買ってきて」と頼むのだが、なぜかいつも買ってこない。
「危険なのよ」
どうして買ってきてくれないのと訊ねたコウセイに、ダイニングのテーブルに座って紅茶を飲みながら母親は言った。
「危険だから販売していないのよ」
「危険ってどういうこと?」
「喉につまるのよ」
「僕は喉に詰まったことがないよ」
「世の中には運が悪い人がいるの」
「でも喉に詰まるかもしれない食べものはたくさんあるよ」
首をかしげながらコウセイは言う。
「だってヒイオバアチャンは僕が生まれる前にお餅を喉に詰まらせて死んじゃったんだよね」
「きっと苦しかったでしょうね」
「でもお餅は今も売っているよ」
「お餅は、……昔からあるからよ」
「昔からあるのなら危険でもいいの?」
目を丸くするコウセイに母親はあわてて言った。