【投資の罠】「これだけ時間かけたし…」が命取りになる“サンクコスト”の恐怖
ベストセラーとなっている『5年で1億貯める株式投資 給料に手をつけず爆速でお金を増やす4つの投資法』の著者・kenmoさんと、新刊『最後に勝つ投資術【実践バイブル】 ゴールドマン・サックスの元トップトレーダーが明かす「株式投資のサバイバル戦略」』の著者・宇根尚秀さんによる特別対談をお送りする。新NISA(少額投資非課税制度)で、大人気の「オルカン(eMAXIS Slim全世界株式<オール・カントリー>)」「S&P500(米国株式)」に連動する投資信託を始めた多くの個人投資家に、次の一手となる個別株投資を指南。個人投資家とファンドマネージャーによる「ここでしか語れない話」を繰り広げる。

「自分もやりがち…」投資で大損する人の“独りよがりな思考”がグサっとくるPhoto: Adobe Stock

輝かしいキャリアの裏にある
投資の失敗談

kenmo 宇根さんは、一見するとキラキラのキャリアで順風満帆、常に成功されているように思えてきます。しかし、これまで思わず冷や汗をかくような投資の失敗を何度も経験されてきたのではないでしょうか。

もし差し支えなければ、特に印象に残っている失敗談と、そこから得られた学びについてお聞かせいただけますか。

「思い入れ」と「サンクコスト」
という心理的な罠

宇根尚秀(以下、宇根) 失敗は、本当にたくさんありますよ。特に記憶にあるのは、特定の企業や案件への思い入れが強くなりすぎて、一つのポジションに固執してしまったケースです。

投資において重要なのは、常に「今、もし自分がノーポジションだったら、このポジションを本当に取りたいか?」と自問自答することです。そこで「いや、取りたくないな」と感じるならば、本来はすぐに手放すべきなのです。

しかし、「長年持っているし」「これだけ時間やお金をかけて調べてきたし」といったサンクコスト(埋没費用=すでに投じてしまい回収できないコスト)が頭をよぎり、今あるポジションを正当化したいという心理が働いてしまう。いくらキャリアを積み重ねても、そういった状況に陥ることがあります。

このサンクコストの罠にはまり、大きな損失を出してしまった経験は、過去に何度もあります。かつては集中投資型で運用していた時期もあり、最大ポジションで大失敗したこともありました。周りの人から忠告を受けても、次第に聞く耳を持たなくなってしまう…そんな独りよがりな状態に陥ることも、30代の頃にはありましたね。

行動経済学で語られるような
心理的な罠

宇根 今でも、「これは良い案件だ」と大きめに投資をして、結果的に外してしまうことはあります。後から振り返ると、「経営者のあの考え方には、本当は少し違和感を覚えていたのかもしれない」「事業の方向性に疑問があったのに、『信じたい』という気持ちが強すぎて、客観的な判断ができなかった」といった反省点が見えてきます。

行動経済学で語られるような心理的な罠に、自分が見事にはまってしまったことへの悔しい思いは、減ってきたとはいえ、今でも感じることがあります。

具体的な銘柄を挙げるのは難しいですが、ゴールドマン・サックス時代にデリバティブ(金融派生商品)で大きな失敗をしたこともありますし、ある半導体銘柄が倒産寸前の状況で「きっと持ち直すはずだ」と信じて投資し、大失敗したこともあります。

自分に対して率直に
批判してくれる仲間がいる環境

むしろ、ご自身の資産を削りながら真剣に投資と向き合っている個人投資家の方々のほうが、そうした心理コントロールの訓練を積まれているのかもしれないと、最近出版されている様々な本を読んで勉強させてもらっています。

私は数学的なアプローチも用いますが、投資の基本はやはりファンダメンタルズ(基礎的条件=損益やキャッシュフローなど業績)を読み解き、業績が向上することに賭けることです。

その基本動作のどこかを取り違え、ポジションに固執してしまう失敗は今でもあります。だからこそ、チームで投資を行い、自分に対して率直に批判してくれる仲間がいる環境は、非常にありがたいと感じています。

kenmo なるほど、チームでお互いに批判し合える環境が、客観性を保つ上でメリットの一つになっているのですね。