また、タウリンが面白いのは作用する場所によって全然違う働きをするという点です。
例えば、脳に存在するタウリンは、交感神経の働きを抑制して興奮を鎮める作用があるのです。戦前にタウリンを鎮痛剤として注射していた話をしましたが、これはまさにこの鎮静作用を利用したものと言えます。
脳では興奮を鎮め、筋肉では収縮を増強し運動能力を上げるわけですから、タウリンは脳と末梢で真逆の働き方をしているわけです。
また、先ほどタウリンの浸透圧調節機能について述べましたが、表皮に存在するタウリンは、我々の皮膚の浸透圧の調節にも一役買っていることが分かっています。
つまりタウリンは皮膚の表皮細胞が水分を保持するうえで重要な役割を担っており、保湿効果を発揮してくれるのです。
神秘的な効能を持つタウリンを
うまく日常に取り入れる方法
小さくて単純な構造のタウリンがどうしてここまで多くの効能を持つのかについては、専門家の間でも「ミステリー」「驚異的」との声が上がるほど。まだまだ分かっていない効能もたくさん隠されていると思われます。
神秘的とさえ言える数々の効能があるタウリンですが、合成タウリンが医薬品扱いになっている日本で、タウリンを補給するためにはどうすれば良いのでしょうか。
冒頭で紹介した「タウリンでマウスの寿命が10%延びた」という『サイエンス』の論文では、ヒトの加齢と血中のタウリン濃度の関係を調べたところ、60歳では5歳時点の約3分の1までタウリン濃度が低下していることが分かったと紹介されていました。つまり、タウリンの合成能力は加齢によって低下する可能性が示唆されたのです。
ところが、かつてある県の健康診断データを利用して年齢と血中タウリン濃度の関係を調べる研究を行った結果、日本人では加齢による血中タウリン濃度の減少は見られませんでした。
『サイエンス』に発表された研究は欧米人を対象に行われたものですが、日本人と欧米人で何が違うと考えられるのか。