ニューリッチの自己顕示欲や見栄
気持ちが透けて見えるお金の使い方

 富裕層から転落していった人たちとそうでない人たちの分岐点となっているのが、1億円ほどのキャッシュを動かせるようになったときです。この1億円とは個人の金融資産ではなく、基本的には自身が経営する会社のお金のことを指します。事業がうまくいき、いわゆるキャッシュフローが回っている状態のことです。それくらいの資産を手に入れたときの、お金の使い方が命運を分けます。

 私が見てきた限り、自ら事業を立ち上げ、成功させたニューリッチたちは、手にした経済力を自分の立ち位置の表現のために一気に使ってしまうことがあります。

 例えば、私がエステサロン経営に限界を感じ、美容商品の製造・開発を手がけ始めたころ、とても羽振りのいい若手の男性経営者と知り合いました。彼の会社は美顔器を扱っていて、全国チェーンの大手エステサロン、美容室との取引に成功していました。私が知り合ったのは、彼が一気に「ニューリッチ」の仲間に入ったタイミングでした。

 彼からすると、50代で地方都市から美容ビジネスに参入しようとしていた私が物珍しくもあったのでしょう。業界の集まりや勉強会の後、私を含め、彼よりもキャリアの浅い経営者を複数人誘って、自分が実践し、うまくいった営業方法などをアドバイスしてくれました。

 それ自体はありがたいことでしたが、場所は必ず高級ホテル。ラウンジで1万2000円のハンバーガーを振る舞ってくれることもあれば、レストランで最高級和牛のフルコースをごちそうしてくれることもありました。そして、その後は買ったばかりの高級外車で帰っていきます。

 彼が毎回待っていたのは、「すごいじゃないですか!社長」という反応です。そして、そのお金の使い方からは自己顕示欲、見栄、虚栄心を満たしたい気持ちが透けて見えます。

 成功の証しとして、自分を大きく見せるためにお金を使っているニューリッチは目立ちます。

 すると、VIP専用をうたう投資話を持ち込む人や、功名心をくすぐる会員ビジネスに誘う人、高級品を販売する営業マンなど、お金と浪費のにおいをかぎつけた人たちが集まってくるのです。彼らの耳心地の良い言葉に心を動かされ、自己顕示欲を満たしていると1億円くらいのお金は3日くらいでなくなってしまいます。

 私たちに成功の心得を教えてくれていた男性経営者は、上り調子だった2年間、間違いなく成功者でした。お金に不自由なく、一代で財を築いた経営者としてきらびやかな暮らしぶりをSNSなどで発信。業界内外から注目を集めていたものです。

 ところが、メインの取引先だった大手エステサロンの経営難のあおりを受け、本業の業績が悪化しました。そのまま事業を立て直すことができず、自己破産に追い込まれてしまいました。