シンガポール国立大学(NUS)リー・クアンユー公共政策大学院の「アジア地政学プログラム」は、日本や東南アジアで活躍するビジネスリーダーや官僚などが多数参加する超人気講座。同講座を主宰する田村耕太郎氏の最新刊、君はなぜ学ばないのか?』(ダイヤモンド社)は、その人気講座のエッセンスと精神を凝縮した一冊。私たちは今、世界が大きく変わろうとする歴史的な大転換点に直面しています。激変の時代を生き抜くために不可欠な「学び」とは何か? 本連載では、この激変の時代を楽しく幸せにたくましく生き抜くためのマインドセットと、具体的な学びの内容について、同書から抜粋・編集してお届けします。

【歴史の効用】歴史が教えてくれる栄枯盛衰のメカニズムとは?Photo: Adobe Stock

オスマン帝国の誕生が
大航海時代幕開けのきっかけ

 前述した通り、オスマン帝国の誕生が大航海時代幕開けのきっかけとなった。

 そのオスマン帝国もアナトリア半島の辺境に誕生した小規模な遊牧民国家であり、当時の辺境ダークホースだったのだ。

 それが千年続いたビザンツ帝国を倒し、歴史の中心に躍り出たのだ。

 そして、オスマン帝国の「インド~欧州間」のスパイス貿易の莫大な中抜きが、欧州の辺境であったポルトガルやスペインを大西洋航路の開拓に駆り出した。

 欧州の中心ではなく、地中海貿易からもハブられていたポルトガルやスペインは、リスクをとって大西洋貿易の開拓に乗り出した。

 その後、中南米にあったアステカ、マヤ、インカなどの帝国を滅ぼし、多く略奪し、大西洋貿易が急激に栄えた。

「アルマダの海戦」で
スペインは、イギリスに敗北

 しかし、驕れるものは久しからず。

 その後、オランダがスペインから独立。当時、世界最強の海洋国家だったスペインは、欧州のさらなる辺境であったイギリスに「アルマダの海戦」で敗れる。

 しかし、そのイギリスも辺境の植民地であったアメリカに独立戦争で敗れてしまう。アメリカは大西洋と太平洋に守られ、食糧も自給できる地政学的な優位性を持っていた。

 このアメリカ独立がフランス革命を呼び起こし、国民国家が欧州で誕生する。

 その国民国家の息吹は、辺境にあって国家の体を成していなかったゆるやかな連邦であった日本、ドイツ、イタリアにも飛び火し、それぞれが国民国家として誕生した。

 国民国家は、国家財政と国民動員による総力戦を可能にし、各地で帝国を崩壊させていく。

弱い王政が幸いして、
イギリスで産業革命が起こる

 イギリスは、その弱い王政が幸いして、産業革命を引き起こし、1830年代以降に世界史の中心に躍り出る。当時の中国は、アヘン戦争(1840~42年)で弱体化された清帝国であった。

 それまで、常に日本は中国を師として仰ぎ見ていたが、ついに日清戦争で清を倒し、世界の列強の一角に躍り出ることになる。

 その清も、もともとは辺境のダークホースだった。中国北方の満洲という辺境地域から女真族が明朝を倒して建国したのが清だ。それが17世紀に中国全土を支配し、清朝として約300年続く王朝を築いた。

 それを辺境ダークホースだったイギリスによるアヘン戦争と、辺境ダークホースだった日本による日清戦争が衰退させたのだ。

 中国の歴史をさかのぼれば、モンゴル高原という辺境地域から、チンギス・ハンが登場し、13世紀にユーラシア大陸全域にわたる最大規模のモンゴル帝国を築き、既存の文明や国家体系を一変させたことにも触れないといけない。

 その後、辺境ダークホースだった日本は、強大だったロシア帝国にも日露戦争で勝利し、その後に起こったロシア革命などの影響もあり、帝政ロシアは滅亡した。

(本稿は君はなぜ学ばないのか?の一部を抜粋・編集したものです)

田村耕太郎(たむら・こうたろう)
シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院 兼任教授、カリフォルニア大学サンディエゴ校グローバル・リーダーシップ・インスティテュート フェロー、一橋ビジネススクール 客員教授(2022~2026年)。元参議院議員。早稲田大学卒業後、慶應義塾大学大学院(MBA)、デューク大学法律大学院、イェール大学大学院修了。オックスフォード大学AMPおよび東京大学EMP修了。山一證券にてM&A仲介業務に従事。米国留学を経て大阪日日新聞社社長。2002年に初当選し、2010年まで参議院議員。第一次安倍内閣で内閣府大臣政務官(経済・財政、金融、再チャレンジ、地方分権)を務めた。
2010年イェール大学フェロー、2011年ハーバード大学リサーチアソシエイト、世界で最も多くのノーベル賞受賞者(29名)を輩出したシンクタンク「ランド研究所」で当時唯一の日本人研究員となる。2012年、日本人政治家で初めてハーバードビジネススクールのケース(事例)の主人公となる。ミルケン・インスティテュート 前アジアフェロー。
2014年より、シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院兼任教授としてビジネスパーソン向け「アジア地政学プログラム」を運営し、25期にわたり600名を超えるビジネスリーダーたちが修了。2022年よりカリフォルニア大学サンディエゴ校においても「アメリカ地政学プログラム」を主宰。
CNBCコメンテーター、世界最大のインド系インターナショナルスクールGIISのアドバイザリー・ボードメンバー。米国、シンガポール、イスラエル、アフリカのベンチャーキャピタルのリミテッド・パートナーを務める。OpenAI、Scale AI、SpaceX、Neuralink等、70社以上の世界のテクノロジースタートアップに投資する個人投資家でもある。シリーズ累計91万部突破のベストセラー『頭に来てもアホとは戦うな!』など著書多数。