シンガポール国立大学(NUS)リー・クアンユー公共政策大学院の「アジア地政学プログラム」は、日本や東南アジアで活躍するビジネスリーダーや官僚などが多数参加する超人気講座。同講座を主宰する田村耕太郎氏の最新刊、『君はなぜ学ばないのか?』(ダイヤモンド社)は、その人気講座のエッセンスと精神を凝縮した一冊。私たちは今、世界が大きく変わろうとする歴史的な大転換点に直面しています。激変の時代を生き抜くために不可欠な「学び」とは何か? 本連載では、この激変の時代を楽しく幸せにたくましく生き抜くためのマインドセットと、具体的な学びの内容について、同書から抜粋・編集してお届けします。
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スパイスやお茶が歴史を動かした
歴史を動かす原動力となったものとして、「スパイス」や「お茶」がある。
4つの大陸(ユーラシア、北米、南米、アフリカ)に分かれていた人類の歴史を、一つにつなげる大航海時代が始まったきっかけは、「スパイス」だ。
インドと欧州のスパイス貿易を、その間に現れたオスマン帝国が中抜きし始めたことが、ポルトガルやスペインによる大西洋航路開発のきっかけとなった。
また後述するが、欧州のはずれで地中海貿易の恩恵を今一つ受けていなかったからこそ、ポルトガルやスペインという欧州の辺境が、大航海時代の主人公として躍り出たのだ。
彼らは、地中海貿易には不向きなロケーションであったが、大西洋航路の開発にはベストなロケーションだった。
アメリカ独立戦争も「お茶」がきっかけに
「お茶」もそうである。アヘン戦争もアメリカ独立戦争も「お茶」がきっかけとなった。
17世紀半ばからイギリスでは、中国産のお茶を輸入し始めた。お茶は、まず上流階級のステータスシンボルとなり、その後は労働者階級まで広まり、需要が増していく一方だった。
産業革命期のイギリスでは、労働者の健康とリフレッシュのために砂糖やミルクを入れたお茶を飲むようになり、そこから休憩時間であるティーブレイクの習慣が広まった。
イギリスは、中国からお茶を輸入するのと引き換えに、中国にアヘンを売っていった。これが、後の中国社会の混乱と清の弱体化につながった。
また、イギリス東インド会社に中国産のお茶のアメリカでの独占販売権を与え、それが後のアメリカでの重税につながり、植民地の人々を独立戦争へと蜂起させた。
現在、世界最大の国家である中国とアメリカの体制変革のきっかけを作ったのは、「イギリスを中心に欧米に普及していたお茶」だったのだ。
また、近い将来、アメリカや中国に並ぶインドにも、お茶は大きなインパクトを与えた。
イギリスによるお茶の生産は、中国からインドにも伝来し、今の紅茶がインドの土壌や気候の中で誕生した。お茶はイギリスがインドを植民地化する大きな動機であったのだ。
(本稿は『君はなぜ学ばないのか?』の一部を抜粋・編集したものです)
シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院 兼任教授、カリフォルニア大学サンディエゴ校グローバル・リーダーシップ・インスティテュート フェロー、一橋ビジネススクール 客員教授(2022~2026年)。元参議院議員。早稲田大学卒業後、慶應義塾大学大学院(MBA)、デューク大学法律大学院、イェール大学大学院修了。オックスフォード大学AMPおよび東京大学EMP修了。山一證券にてM&A仲介業務に従事。米国留学を経て大阪日日新聞社社長。2002年に初当選し、2010年まで参議院議員。第一次安倍内閣で内閣府大臣政務官(経済・財政、金融、再チャレンジ、地方分権)を務めた。
2010年イェール大学フェロー、2011年ハーバード大学リサーチアソシエイト、世界で最も多くのノーベル賞受賞者(29名)を輩出したシンクタンク「ランド研究所」で当時唯一の日本人研究員となる。2012年、日本人政治家で初めてハーバードビジネススクールのケース(事例)の主人公となる。ミルケン・インスティテュート 前アジアフェロー。
2014年より、シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院兼任教授としてビジネスパーソン向け「アジア地政学プログラム」を運営し、25期にわたり600名を超えるビジネスリーダーたちが修了。2022年よりカリフォルニア大学サンディエゴ校においても「アメリカ地政学プログラム」を主宰。
CNBCコメンテーター、世界最大のインド系インターナショナルスクールGIISのアドバイザリー・ボードメンバー。米国、シンガポール、イスラエル、アフリカのベンチャーキャピタルのリミテッド・パートナーを務める。OpenAI、Scale AI、SpaceX、Neuralink等、70社以上の世界のテクノロジースタートアップに投資する個人投資家でもある。シリーズ累計91万部突破のベストセラー『頭に来てもアホとは戦うな!』など著書多数。




