世界銀行によれば、今後の世界経済を支えるのはソーシャル・イノベーションのような新しいパラダイムであり、従来のように単にGDPだけで成長を考える時代から移り変わろうとしています。そんな転換点にある今、世界銀行で「知識経営・組織変革」を軸に仕事をしている荻原直紀さんから『利益や売上げばかり考える人は、なぜ失敗してしまうのか』を読んで次のメッセージをいただきました。
日々の業務で誰もが使える
実践的フレームワークになる
目的工学研究所のみなさん、こんにちは。
私は日本での知識経営・組織変革のコンサルティングを経て、現在は、ワシントンDCにある世界銀行本部にて知識経営を推進する立場にあります。大組織の変革推進の現場では、社員をはじめとするステークホルダーの行動様式とマインドセットを、本書で言う大目的に向けてオーケストレーション(調整)することが最重要課題のひとつです。
世界銀行 金融・民間セクター開発局 上級知識経営担当官。1971年生まれ。F.W. Olin Graduate School of Business at Babson首席卒業。2011年よりワシントンDCの世界銀行本部にて、金融・民間セクター開発局の知識経営、組織変革を担当。本部と世界中の途上国に分散する世銀職員の知の共有、そのための仕組みづくりと成果測定、職員の行動変革などを推進している。世銀入行前は、日本にて知識経営・組織変革のコンサルティングを12年にわたり実施。デザインシンキング、ファシリテーションと異企業間コラボレーションをベースにした「組織活力を引き出す」アプローチで、多くの企業の変革を支援。
本書で提案されている目的工学のフレームワークは、そのまま組織変革の計画と実行の指針となると感じています。「貧困なき世界」という高邁なビジョンを掲げる世界銀行も、中に入れば無数の部局、ユニットからなる集合体です。
しかも出資国、途上国をはじめとする膨大なステークホルダー間の調整を必要とする複雑な機関です。だからこそ、高邁なビジョンと職員の日々の業務を結びつける「目的のマネジメント」がないと、バラバラの方向に向かうユニットの集合体になりかねません。
この本が私に示してくれた価値は、単なる「目的学」ではなく、工学的アプローチを取ることにより、実践的フレームワークを示し、誰もが使える指針や共通言語を導いたところにあると思います。
例を上げるなら「目的に基づく経営」と「目的のマネジメント」の体系化がそれにあたります。あるいは「大目的⇔駆動目標⇔小目的⇔タスク目標」による目的階層の明確化などは共通理解を得るのに極めて有益です(下図参照)。
こうした知的基盤に基づいた目的工学は、組織運営のみならず、たとえば個人のキャリアなどを考えるうえでも、きわめて実務的なフレームを提示してくれるはずです。